回転寿司では定番中の定番であり、世界的にも人気の高いサーモンですが、いわゆる高級寿司店や老舗の寿司屋では、サーモンがメニューに並ぶことはほとんどありません。これは味が劣るからでも、寿司に合わないからでもありません。背景には、寿司という食文化が積み上げてきた歴史と価値観があります。
まず前提として、サーモンは日本の伝統的な寿司ネタではありません。サケ類は、焼く、煮る、漬けるといった調理法が基本であり、「生で握る寿司ネタ」という文脈には存在しませんでした。そのため、高級店の中でも特に伝統を重んじるお店では、まず選択肢に上がることはありません。
高級寿司店の多くは、「江戸前寿司」の流れをくむ価値観を大切にしています。
江戸前寿司とは、東京湾を中心に獲れた魚を、仕事と呼ばれる下処理や工夫によっておいしく提供する文化です。ネタの選定も、その日に獲れた魚や、季節ごとの旬を重視します。その文脈において、海外養殖で通年安定供給されるサーモンは、そもそも評価軸の外に置かれやすい存在なのです。
また、高級寿司店では「魚そのものの個性」をどう引き出すかが重要視されます。
天然魚は、同じ魚種でも産地や時期、個体差によって味が変わります。その違いを見極め、扱い分けることが職人の腕の見せ所になります。一方、養殖サーモンは品質が均一で、脂の乗りも安定しています。これはビジネスとしては大きな強みですが、「違いを表現する」という高級寿司の価値観とは、必ずしも相性が良いとは言えません。
さらに言えば、サーモンはすでに「大衆的な寿司ネタ」として広く認識されています。
回転寿司や持ち帰り寿司、海外の寿司レストランなど、あらゆる場所で提供されています。その結果、高級寿司店にとっては「わざわざうちで出す理由が見つけにくいネタ」「特別感を演出しにくいネタ」になっている側面もあります。高級店は、非日常性や希少性を価値として提供する場でもあるため、どこでも食べられるネタは選ばれにくくなるのです。
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