リテール大革命

レジなし店舗「Amazon Go」撤退が、「失敗」ではないこれだけの理由 がっかりしないDX 小売業の新時代(4/4 ページ)

» 2026年02月26日 06時00分 公開
[郡司昇ITmedia]
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次の一手

 Amazonの次の一手は明確です。今後数年でWhole Foods Marketを100店舗以上、新規出店する計画を公表しました。小型都市フォーマットのWhole Foods Market Daily Shopも、2026年末までに5店舗から10店舗に拡大。さらに、イリノイ州オーランドパークには22万9000平方フィート(約2万1300平方メートル)のスーパーセンター型新業態を計画しています(CNBC, 2026年1月9日)。Walmartスーパーセンターの平均面積である17万9000平方フィートを上回る規模で、食料品、日用品、一般商品を扱い、配達ドライバーのピックアップ用の倉庫機能も併設する予定です。

 つまりAmazon Go、Amazon Freshの撤退は食品小売からの撤退ではないということです。「自社ブランドの実験店舗」という手段の撤退であり、食品小売という事業領域ではむしろ投資を拡大しているのです。

技術が解決したものと、しなかったもの

 Amazonの実験と並行して、世界各地でレジレス、無人店舗が登場しました。筆者は2019年にサンフランシスコのStandard MarketやZippin、上海のLePickやコンテナ型無人店舗を視察体験しました。

 これらの体験を通じて明確になったのが「レジレス」と「無人」の本質的な違いです。

 中国で一時流行したコンテナ型無人店舗は、自動販売機の延長線上にある仕組みでした。WeChatやAlipayのQRコードでコンテナのロックを解除し、商品はセルフレジでバーコードスキャンまたはRFIDタグで自動登録、最後にセルフレジで決済する。無人であることのメリットは人件費の抑制ですが、Amazon Go同様の商品自体の魅力不足以外に、機械トラブルへの対応の遅れ、商品への質問ができない不便さといったデメリットが伴います。

中国上海のコンテナ型無人コンビニ(2019年7月筆者撮影)

 一方、Amazon Goをはじめとした、無人ではないレジレス店舗の多くには店員が配置されています。商品の補充やトラブル対応、そしてフレンドリーな接客を提供。技術が代替したのはレジ作業であり、むしろ人ならではの役割に余裕ができたのです。

 象徴的な光景を目にしたのは、ニューヨークの空港売店です。この店舗はAmazonが外販するJWOテクノロジーを採用しており、クレジットカードで入店する仕組みでした。

 ベビーカーを押した女性が入店しようとクレジットカードをタッチしましたが、ゲートが邪魔でうまく入店できませんでした。すると、店内で補充作業をしていた女性従業員が歩み寄って声をかけ、ゲートを手で押さえて入店をサポートしました。そして入店後に何か困ったことがあったら声をかけてほしいというニュアンスの言葉をかけていました。

参考:効率追求の落とし穴 「レジなし店舗」が見逃しがちな重要ポイントとは?

 こういった買い物客のサポートをする人がいる店舗といない店舗、どちらが魅力的でしょうか。答えは明白です。技術がレジ作業を代替したからこそ、人は人にしかできない役割に注力できるのです。

 Amazonの10年間の実店舗実験で技術が確実に解決したものが2つあります。レジ待ちの時間ロス・不公平感・接遇不満という顧客不満の構造的解消と、オフラインでの購買行動のデータ化です。

 一方、技術だけでは解決できなかったものもあります。品ぞろえや商品力という来店動機の根幹、大型店舗でのコスト効率、物理的な棚のパーソナライズ、そして「人がいることの価値」をどう設計するかという問題です。これらは技術の問題ではなく、事業設計と組織判断の問題です。

 後編では、視点を技術から組織に移し、Amazonが撤退をどう次の投資に変換したかを分析します。その上で、日本企業のPoCがなぜ同様の学習サイクルを回せないのかを考察します。

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