As-Isアプローチの典型例が、カードカウンターの「終礼GPT」だ。
クレディセゾンのカードカウンターは、百貨店などの提携先店舗でクレジットカードの案内を行う営業職だ。1日の終わりには終礼があり、各テナントの担当者が獲得件数や現場の様子を報告する。この議事録は翌日の申し送り事項にもなるため、高い精度が求められる。担当者が作成する時間はおよそ15分。小さいようで、毎日積み重なる負荷だった。
この終礼自体はこれまで進めつつ、議事録の作成で音声の自動文字起こしを使用。ChatGPTが要約し、Slackに日報として投稿するようにした。
担当者はAIが事実と異なる内容を生成していないかを確認するだけでよい。所要時間は2〜3分になった。「業務は何も変えていない。ただ、AIが後ろで動いている」──このシンプルな構造が、現場の抵抗感をなくした。
自発的な広がりも起きている。経理担当者が自ら作成した「決裁基準確認GPT」もその一つだ。
「1500万円のシステム開発をしたい場合、どの委員会への上申が必要か」といった問いに、社内規定を参照しながら即座に答えてくれる。担当者によって調べる時間にばらつきがあった業務が、誰でも数秒で完結するようになった。
人事部門では、部長自らが指揮を執り、AI活用状況を共有するSlackチャンネルを開設するなど、トップダウンで現場を引っ張る構図が生まれている。
現場が動き出したのと並行して、経営層も自らAIを使い始めた。
「カスタムGPT」を活用し、上司自身の判断軸をAIに埋め込む取り組みも進めている。
きっかけはCSDX(Credit Saison Digital Transformation、クレディセゾンが進めるDX戦略)推進会議でのハンズオンだった。月1回、社長以下の役員が集まるDX会議の場で、全員がその場でカスタムGPTを作った。「日頃の役員レビューで繰り返し指摘してきたことをプロンプトに書いてみてください」と促すと、各役員が自分の判断基準を言語化し始めた。研修としてGeminiでプロンプトの型を学んだ後、各自のカスタムGPTに落とし込んでいった。
不動産ファイナンスを担当する木原亮執行役員が作ったカスタムGPTはその典型だ。これまで培ってきたビジネス上の判断軸や心構えを丸ごと入力してあり、出張中でも部下が壁打ちできるようになっている。
効果は稟議の通過率に現れた。「以前は木原さんに持っていって、この観点が足りないと言われ、やり直しになることがあった。今は事前の想定問答がカスタムGPTとの壁打ちで完結した状態で持ち込まれるので、通過率が格段に上がった」と小野氏は話す。
富裕層向け商材を担う部門の岸田大輔部長も同様の仕組みを作り、「まずカスタムGPTに相談してから私のところに持ってきてください」と部下に伝えた。初歩的なやり直しは激減し、「前さばきでお互いの時間が節約できている」状態が生まれた。
トップも例外ではない。社長の水野克己氏は自作のカスタムGPTで商談準備を完結させる。担当者が取引先の情報をまとめて報告する慣行があったが、自分で会社名を入力すれば概要が即座に出てくる仕組みを自ら構築した。
役員や部長の思考をAIに実装することで変わったのは、個々の業務効率だけではない。「何をもって良い提案とするか」という判断基準が、カスタムGPTを通じて組織に広がりつつある。
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