サービス開始後、山口氏は「レントラ便」を単に広めるだけでなく、現場の声に応えるための「深掘り」を徹底した。スタッフが荷物に触れない代わりに安価な「セルフプラン」、エアコン脱着オプションの充実など、現場で拾い上げたニーズをプランやオプションに反映した。今では、団体旅行向けの「東京ポーターサービス」など、運送の枠組みを超えた派生事業も展開している。
マーケティング戦略も進化を遂げた。かつての広告頼みから、公式Webサイト上でのコラムの執筆やサービス利用者からの感想ハガキの公開といった「ファンづくり」へシフト。コラム記事は、サービス立ち上げ後から毎週欠かさず更新している。
現在では、SEOやSNSによる自然流入が増加し、広告費を最小限に抑えながら「コスパ・タイパの良いサービス」としての認知を確立している。
山あり谷ありな事業運営と同様に、組織としても平坦な道ばかりではなかった。2019年に「完全脱下請け」を果たすまで財務面の苦境は続き、一時は全従業員が離職する組織の危機も経験した。山口氏は当時をこう振り返る。
「2001年に売り上げの8割を失って以来、ずっと『V字回復』を目指してきました。でも最近、そんなものはないんだと分かったんです。事業を真に回復させるには、V字のような急上昇を夢見るのではなく、地道に『脱下請け』を進める。それしかないのだと」
コロナ禍では売り上げが半減したが、この間も「やれること」を積み重ねた。コロナ禍明けを見据え、企業や大学生協への引っ越しサービスの提案を強化した。こうした連携に加え、リモート移住やトランクルーム需要を確実に捉えることで、苦境を跳ね返した。
物流業界全体がコスト高や人手不足にあえぐ「2024年問題」の渦中にあっても、ハーツの歩みは揺るがない。2024年以降、受注件数は前年比7%増を記録。それに比例して売り上げも着実に伸長しており、安定した成長軌道に乗っている。
「基本料金はこの15年間変えていない」と語る山口氏。引っ越し料金が高騰する業界内で、誰もが利用しやすい「受け皿」としての役割を全うするためだ。売り上げが伸びれば、その利益を社員の幸せやサービス向上へと投じる。そんな健全な循環が、今のハーツを支えている。
「全てが道半ば。サービス自体も未完成だと思っていますが、レントラ便を普及させることが私の使命なんです」
25歳、軽トラ1台から始まった山口氏の旅は、31年目に入った。認知度を上げ、共に汗を流すスタッフの幸せを追求することは、一生をかけた使命だという。平成、令和と激動の時代を駆け抜け、完全脱下請けを果たした今も、山口氏は変わらず現場に落ちているヒントを拾いながら、サービスを磨き続けている。
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