では「前提を変える」とは具体的にどういうことなのか。高野氏は講演の中で、自社の製品開発を例にその思考プロセスを示しました。
「水を使いすぎる」という現象がある場合、一般的に思い浮かぶのは、節水型の蛇口を開発する、水量を制限するといった対策です。しかしそこには「水を大量に使うのが当たり前」「水量が多いほど洗浄力は高い」「水を減らせば洗浄力は落ちる。だから節水は、どこかで性能を犠牲にするもの」といった暗黙の前提があります。
高野氏が疑ったのは、まさにこの因果関係でした。「水を減らすと洗浄効果も落ちる。本当にそうですか? これを疑うわけです」
洗浄力は水の「量」で決まるのではなく「流れ方」や「当たり方」で決まるのではないか。そう考え、水を大量に出す構造の改良ではなく、水の出方そのものの再設計を進めました。
無電力で脈動流(流速や流量が周期的に変動する流れ)を起こすことで、少量の水でも同等以上の洗浄効果を生み出す。結果として実現したのが最大95%の節水です。「設立1年目、社長1人の会社、ものづくりの素人が初めて作った作品が日本一になった」と高野氏は振り返ります。
「洗う側を極めたんだったら、次は洗われる側だ」──95%の節水を実現した後「これ以上節水できない。果たしてそうなのか?」と問い直し、今度は汚れが簡単に落ちるお皿を開発。洗剤なしで汚れを落とせれば、すすぎの水も減り、洗う時間も短くなる。「洗う」という行為そのものの前提を疑った結果です。
「これはものづくりですか。それとも前提設計ですか。皆さんはどこで戦っていますか」と高野氏は問いかけます。
ここで変わったのは技術ではありません。水と洗浄の関係についての前提です。
重要なのは、自社の強みから出発していないことです。
「自社の強みから始めていませんか。それとも何が前提として間違っているかから始めていますか。ここなんです。その強みを生かす土俵が間違っていたら、そもそも努力とか技術とかの戦いじゃない」(高野氏)
強みとは既存の市場構造の中で定義されるものです。
「日本企業は全部、性能と価格の勝負。どの業界だろうが、どこの会社のプレゼンを聞いても性能と価格の勝負。これ、消耗戦なんですよ」
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