前提を変えるとは小売業においてどういうことなのか。鈴木敏文氏が社長を務めていた時代のセブン‐イレブン(以下、セブン)の事例で考えてみましょう。
1970年代、日本の小売業の前提は明確でした。売場面積が大きいほど品ぞろえが豊富になり、品ぞろえが豊富なほど集客力が高い。総合スーパーの全盛期であり、小型店は品ぞろえで大型店に勝てない補完的存在にすぎないとされていました。この前提の上では、判断基準は「いかに売場面積を確保し、品数を増やすか」になります。
鈴木氏はこの前提を根底から覆しました。30坪の売場に並べられる商品は約2500〜3000品に限られるこそ、1品1品の精度が問われる。この前提に立つと、判断基準は「SKU数の多さ」から「単品ごとの仮説精度」に変わります。
打ち手は「POSデータに基づく単品管理」「天候や地域イベントに連動した仮説検証の徹底」「1日複数回の多頻度小口配送」になりました。大型店が「広さ」で勝負するなら、コンビニは「編集力」で勝負する。限られた棚に、いま・ここで・この場所に来る客が求める商品だけを並べる。そうした結果、セブンは圧倒的な坪効率を実現し、総合スーパーを収益力で凌駕しました。
鈴木氏は「われわれの競争相手は同業他社ではない。絶えず変化する顧客ニーズだ」と繰り返し述べていました。競合を見て判断するのではなく、顧客の変化を見て判断する。判断基準の置き場所が、そもそも違うのです。
注目すべきは、メディアでのセブンの成功がPOSや配送網といった「テクノロジーの導入」で語られがちな点です。しかしこれらは全て「小型店の制約を編集力に変える」という前提転換の後に来た打ち手です。前提が変わったから、必要なテクノロジーが変わりました。テクノロジーが前提を変えたのではありません。この順番を逆にしてしまうのが、まさに「がっかりするDX」の構造です。
フレームワークだけでは企業は変わりません。がっかりしないDXの出発点は、テクノロジーの選定ではありません。自社が無意識に置いている前提を言語化し、その前提が本当に正しいのかを検証することです。
前提が変われば判断基準が変わります。判断基準が変われば、必要なテクノロジーも、投資の優先順位も、組織の在り方も変わります。
では、前提を変えるとは具体的にどのような企業行動なのか。AIは前提転換にどう関わるのか。後編では、前提を変えた企業と、現象を追い続けた企業の明暗を複数の業界で検証し、DXの出発点を再定義します。
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