長靴の事業を手放した数年後の1970年代半ば、初代が新たな事業の柱として着目したのが「Oリング」だった。
「長靴とは異なる分野に思えますが、どちらもゴム製品であり、森清化工の持つ加工技術を生かせます。長靴がサイズや夏用・冬用など多様な種類を作って管理するように、Oリングにも太さや大きさなど非常に多くのサイズが存在します。多様なサイズを管理する『在庫商売』であるというビジネス上の共通点もありました」
しかし、当時のOリング市場は、すでに資本力のある重工業などの大企業や、その下請け企業が製造を担っていた。異業種から参入した森清化工はどのようにシェアを広げていったのだろうか。そこには、家業ならではの長期視点でのアプローチがあった。
「当時のOリング製造は、商社が金型を作ってメーカーに貸し出し、メーカーが品物を作って商社が買い受けるというビジネスモデルが一般的でした。しかし、初代は元々長靴メーカーであったため、自社で金型を持つことが当たり前という感覚をもっていました。そこで依頼されるOリングのサイズに合わせた金型を商社に借りるのではなく、自社で作ることにしました。先行投資になりますが、将来に向けた種まきだと考えたのです」
また、長靴事業を撤退したときに取引先に不義理を働かなかったことが、新規事業の追い風となる。事業を再開すると聞いた工具屋や材料屋が「また始めるんですね、協力しますよ」と、こぞって手を貸してくれたのだ。
取引先は少しずつ増えていったが、そこで「納入価格の差」という壁にぶつかることになる。同じ製品を納入しても、森清化工は1円、大企業では10円といった違いがあったのだ。
「初代は、大企業がOリングを高価格で販売できるのは、JIS規格の製品として納入していたからだと知り、自社もJIS規格を取得しようと考えました。当時、役所に掛け合ったときには『中小企業が取れるものではない』と言われたそうですが、チャレンジを重ねて、1981年にJIS規格を取得しました。品質の高さを担保したことで、販売価格を上げていくことができました」
JIS規格を取得するには、品質を担保するための記録や手法、製造工程の全てで基準を満たさなければならない。現在の製造業では当たり前のことだが、当時中小企業がJIS規格を取得するのは非常に珍しいことだった。
さらに、同社の最大の売りとなったのが、どんなオーダーにも応える「きめ細やかさ」だ。
「JIS規格のOリングの種類は限られています。お客さまから『あと1ミリ小さいものが欲しい』という細かな要望があれば、少量しか生産しないサイズでも金型を作り、要望に応えていました。まさに先行投資をしていたのです。きめ細かい対応によって、お客さまから頼りにしていただけるようになりました」
こうした基礎技術の積み重ねと、「森清化工に頼めば、どんなサイズのOリングも製造してくれる」という対応力が評価され、市場で存在感を強めていった。
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