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若手に「信じて任せる」覚悟はあるか? 1兆円企業マクニカ社長に聞く「経営者の役割」AI革命、日本企業の勝ち筋

» 2026年03月27日 07時15分 公開

特集「AI革命、日本企業の勝ち筋」

生成AIの活用が広がる一方、その裏側では半導体素材、空調・冷却、電力、通信インフラといった領域で、日本企業が着実に存在感を高めている。生成AIサービスを提供する企業だけが主役ではない。昨今、AIインフラを担う企業群にも、注目が集まっている。

生成AI関連市場が盛り上がりを見せる中、どうやって儲かる分野を見極めていくか──。各分野のキープレイヤーへの取材から、自社の戦略や投資判断にも生かせる「勝ち筋」を探る。

第1回:経済産業省

第2回:レゾナック・ホールディングス

第3回:ダイキン工業

第4回:マクニカ前編 マクニカ後編(本記事)

第5回(予定):フジクラ

 国内最大の半導体商社であり、売上高1兆円を超えるマクニカホールディングス。現在同社は、米NVIDIA製品の国内最大級の正規代理店となっている。

 マクニカは「第二のNVIDIA」とも呼ばれる米Broadcomのようなスタートアップをいち早く見いだし、先行投資を続けてきた。その一方で、創業以来、一度も営業赤字を出したことがない。

 「両利きの経営」を成功させてきた背景には、伸びる市場に経営資源を集中させる経営姿勢と、若手社員に「信じて、任せる」マクニカ特有の文化がある。

 前編に続きマクニカホールディングスの原一将社長に、最先端技術を社会実装する人材育成に必要な考え方を聞いた。原社長が語る「経営者の役割」とは──?

マクニカホールディングスの原一将社長(以下写真はアイティメディア撮影)

新事業への挑戦が証明した「信じて待つ」経営

 マクニカホールディングスでは「ひまわり経営」と呼ばれる戦略を重視している。太陽に向かって成長するひまわりのように、将来性のある市場とその関連商品に対し、経営資源を集中させてきた。PCやデジタルカメラ、スマートフォン、フラットパネルディスプレイなど、時代ごとの成長市場を的確に捉え、1972年の創業以来、一度も営業赤字を出したことがない。

 一方で、新たな事業の開発にも挑戦してきた。その裏側には「生みの苦しみ」と「忍耐」がある。原社長が立ち上げから関わり、事業として切り拓いたのが、自動車向けの半導体やソフトウェアを提供する車載事業だ。現在ではビジネスを拡大し、大きなシェアを握る。だが事業として育つまでには、かなりの時間を要したという。

 「2004年に車載事業を始めた頃、日本の自動車メーカーは、当社が現在扱っているような海外の半導体をほぼ使っていませんでした。人の命に関わる製品なので、品質条件が厳しい上、国内の半導体メーカーと組んでいたので、参入する余地がなかったのです。半導体は開発設計から量産段階まで、5年くらいはかかります。車載の場合は10年間ほど先行投資する状態でした」

 それでも原社長には「将来この事業を拡大できる」という確信があったという。

 「自動運転の開発が進むことを考えると、早く着手しなければなりません。生みの苦しみもありましたが、近い将来必ずこうなるとビジョンをチームに示すことで、進めることができました。私自身たくさん失敗してきたものの、しっかりとやりきるのであれば、何でもやらせてくれるのがマクニカの文化です」

信じて任せる 若手を覚醒させる「手応えサイクル」とは?

 この挑戦できる環境は、マクニカの創業以来の特徴だ。創業者の神山治貴名誉会長は、ひまわり経営を進めると同時に、社員に権限を委譲して自律的な成長を促す「手応えサイクル」と呼ばれる仕組みを作った。信頼されて任された若手社員が、新しいビジネスに挑戦して手応えを感じることによって、事業の成長につなげてきたのだ。原社長は、挑戦できる環境を作るのが「経営者の最大の役割」と語る。

 「事業が拡大してくると、戦略の型が定まり、その型をスケールしていくことによって売上高や利益が上がっていきます。ただ、それだけではやることが決まってきて、挑戦する機会が薄れてきます。そうではなくて『両利きの経営』と言われるように、利益の出るビジネスをやりつつ、新しいビジネスにも挑戦する。その経験の中で得られる手応えサイクルを、どんどん回していくことが必要です」

 「私たちはメーカーではないので『人が全て』です。若いときに経験しておかなければ、実践するのは難しくなります。その意味から、採用においてもその人の知識や経験よりも、失敗を恐れずに挑戦するマインドを大事にしています」

マクニカホールディングスの手応えサイクル(プレスリリースより)

海外拠点への日本人出向はごくわずか

 マクニカが半導体事業とサイバーセキュリティ事業に続く柱として展開しているのが、CPS(Cyber-Physical System)ソリューション事業だ。半導体とサイバーセキュリティで培った強みを融合して、サービスやソリューションを提供するもので、新たな挑戦となる。新規事業であると同時に、人材育成面での狙いもあると原社長は明かす。

 「CPSソリューション事業はビジネスであると同時に、人材育成の意味合いもあります。両利きの経営は口で言うのは簡単ですが、私自身難しさを経験しています。新しい事業はすぐ立ち上がるわけでもなく、我慢も必要です。けれども、既存の事業が厳しくなってからでは新しいことはできません。半導体もサイバーセキュリティもまだまだ伸びていきますので、今だからこそCPSソリューション事業に取り組んでいます」

 挑戦できる環境を作るのは、国内に留(とど)まらない。半導体やサイバーセキュリティをはじめとした最先端技術を、世界のさまざまな国と地域で提供しているマクニカは、28の国と地域に91拠点を持つ。2008年頃から海外の半導体商社をM&Aによって傘下に入れはじめ、アジアから北米、南米、欧州へと拡大してきた。

 グローバル展開の特徴の一つが、ローカルのビジネスには日本からの出向者をほとんど置くことはなく、トップも含めて現地の社員に任せていることだ。任せることができるのは「マクニカと同じような付加価値のあるビジネスを展開する企業を、買収しているから」だと原社長は説明する。

 「マクニカは社員の3人に1人がエンジニアで、単に右から左へと販売するのではなく、技術的に価値を付ける技術商社を、おそらく日本で初めてブランド化しました。M&Aをした海外の半導体商社やサイバーセキュリティ商社も、私たちと同じようなビジネスモデルを持った企業です。同じようなDNAを持つ企業に焦点を当てて、買収を進めてきました」

 「そういう意味では、社員は同じアイデンティティや感覚を持っているので、比較的苦労せずに融合できています。信頼して任せることで、国によって言語や文化も違う中でも、手応えサイクルも回っています。権限を委譲する考え方が、グローバルの社員と若手社員両方の活躍につながっています」

世界を歩き、一次情報を「知恵」に変える営み

 グローバル展開の特徴のもう一つは、マクニカのほとんどのサプライヤーが海外企業であり、もともとは最先端のテクノロジーを持ったスタートアップだったことだ。

 マクニカが後に世界的な半導体企業となる会社を、スタートアップ時代に見いだせたのは、決して偶然ではない。創業以来、米シリコンバレーなどに積極的に赴いて、スタートアップの半導体メーカーを発掘し、技術サポートとあわせて最先端の半導体を普及させてきた。その結果、米NVIDIA製品の国内最大級の正規代理店となるなど、日本を代表する半導体商社に成長したのだ。創業50周年を迎えた際に制定した「変化の先頭に立ち、最先端のその先にある技と知を探索し、未来を描いて“今”を創る。」というパーパスにも、その思いを込めている。

 「マクニカは何の会社ですかと聞かれた時には、パーパスの会社ですと答えています。パーパスでは、先端技術をどこよりも早くファーストペンギンとして見つけてきて、それを社会実装する会社と位置付けています。その中で見つけたのが、たまたま半導体やネットワーク、サイバーセキュリティ、自動運転などでした」

 「先端テクノロジーを持つ企業はみんな、最初はスタートアップです。半導体メーカーもスタートアップが結果的に大きくなって、皆さんが知っているメーカーになっています。グローバルにおけるスタートアップのスピード感と、一緒に成功してきた体験が、私たちの歴史にもひしひしと積み上がっています」

 マクニカの営業は出張が基本で、本社の隣にある企業を訪問するのも、海外の企業を訪問するのも「感覚としては変わらない」という。世界をぐるぐる回ることで、グローバルな視点を養い、最先端の技術を見つけることができている。原社長はそのポイントを「一次情報を持つことを楽しんで、その情報を将来の価値に変えるクリエイティビティが最も重要」と表現した。

AI時代だからこそ「手応え」を知る人間が未来を創る

 AIが指数関数的に進化し、「SaaSの死」など多くの既存ビジネスがAIに代替されるという危機感が募る今、マクニカが重視するのが「インテリジェンス」だ。単なる情報収集能力ではなく、情報と知識を「知恵」へと昇華させ、新たな事業を創出する属人的な能力を指している。

 「私たちはメーカーではありません。だからこそ、人の発想力や挑戦するマインドが会社の資産の全てです。AIがどれだけ進化しようとも、未知の領域に踏み込み、失敗を糧にして『手応え』を掴み取るプロセスだけは、人間にしか成し遂げられません」

 10年間の先行投資を耐え抜いた車載事業も、シリコンバレーで見いだしたNVIDIAとの出会いも、全ては「信じて、任せる」という人材育成の土壌から生まれた成果だ。

 「若い世代が一次情報に触れ、自分の頭で考え、社会を動かす実感を得る。この『手応えサイクル』を回し続けることこそが、次なるAI革命の中で日本企業が勝ち残るための、最大のインフラになると確信しています」

 世界の先端技術を誰よりも早く見つけ、社会実装する――。そのパーパスを体現するのは、テクノロジーそのものではなく、飽くなき好奇心で世界を歩き続ける「マクニカの人材」に他ならない。原社長は、次なる50年を創る「ファーストペンギン」たちの背中を押し続ける。

「AIがどれだけ進化しようとも、失敗を糧にして『手応え』を掴み取るプロセスだけは、人間にしか成し遂げられない」と語る原社長(アイティメディア撮影)

著者プロフィール

田中圭太郎(たなか けいたろう)

1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで大学問題、教育、環境、労働、経済、メディア、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)、『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・筑摩書房)。HPはhttp://tanakakeitaro.link/


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