「似たようなデザイン、前にもなかった?」 モンスト「1万体」超の"キャラかぶり"を防ぐ自作AI検索の実力年間297時間を削減へ

» 2026年04月13日 06時00分 公開
[野本纏花ITmedia]

 2013年10月から配信されている「モンスターストライク」(以下、モンスト)。スマホゲーム好きなら一度はプレイしたことがあるであろう、定番のスマートフォン向けゲームアプリである。

 その累計売上高は2025年7月末時点で1.4兆円超。提供開始から10年以上経った今もなお、MIXIの売上構成比率の半分以上を占める大ヒットタイトルだ。日本だけではなく台湾・香港・マカオでも提供されており、世界累計利用者数は6500万人を突破している。

MIXIが提供するスマホゲーム「モンスト」の累計売上高は2025年7月末時点で1.4兆円超(提供:MIXI)

 「指で引っ張って弾くだけ」という簡単な操作性や、トレンドのアニメやゲームとコラボレーションしたイベント、最大4人で一緒に遊べる協力マルチプレイなど、モンストの魅力は多岐にわたるが、なかでも大きいのが継続的に投下される多彩なキャラクターである。

 その数、なんと1万体以上。膨大な数を誇る既存キャラクターとの“キャラかぶり”を防ぐために、同社は独自の「AI検索システム」を開発した。

本記事は、2026年3月27日にMIXI社オフィスで開かれたイベント「MIXI MEETUP!AI DAY 2026」のセッションをもとに紹介する。


“キャラかぶり”を防ぐ モンスト「AI検索システム」の実力

 モンストには、キャラクターの設定情報をまとめた「モンストディクショナリー」というものがある(なお、Webサイト上で公開されているのは一部のキャラクターに限る)。各キャラクターの紹介ページには、名前やイラストだけでなく、キャラクターの性格や誕生日、性別、好きなものや苦手なものなどが掲載されている。

「モンストディクショナリー」より、キャラクター「ピムス」の紹介(公式Webサイト

 仮に、あなたがMIXIに入社したばかりの新人デザイナーだとしよう。モンスト担当となり、新しいキャラクターのデザインを考えるよう指示されたあなたは「金髪の女の子が座っているデザインにしようかな」と思い付き、とりあえず絵を描いてみた。

 それを見た上司は、きっとこう言うだろう。「ちゃんと過去のキャラクターぜんぶ確認した? 似たような子がいたはずだよ」と。

 もちろん実際の現場では、これほど雑な指示はされないだろうし、やみくもに絵を描いてから確認するような非効率なやり方はしていない。だが実際、新規キャラクターの制作過程には、既存の1万体以上のキャラクターを対象にした「類似キャラ調査工程」があり、新しいキャラクターの新規性が担保されているか(既存のキャラクターとかぶらないか)を確認するために、多くの時間を費やしている状況だった。

 素人目で見ると「モンストディクショナリーを使えば、キャラかぶりくらい容易に防げるのではないか」と思えるが、実際はそう簡単な話ではない。

 例えば「ピムス」というキャラクターの名前を覚えていて、このキャラクターの情報だけを見たいのであれば、モンストディクショナリーで「ピムス」と検索すればいい。これなら従来の文字列マッチのキーワード検索で十分に対応できる。

 だが、現場のデザイナーが欲しい検索は、これではない。1万体以上のキャラクターの名前や設定情報を事細かに覚えていることは難しく、ピンポイントで的確な検索キーワードを入力できるとは限らない。それに、自分が「忘れている/知らない/見逃している」だけで、本当はピムス以外にも金髪の女の子が座っているデザインはあるかもしれない。検索によって特定のキャラクターに辿り着けるだけでは、キャラかぶりを防ぐという本来の目的を達成できない。

 つまり、デザイナーが類似キャラ調査工程で求めるのは「金髪の女の子が座っている」といったキャラクターのデザイン要素(表情・背景・ポーズ・乗り物・衣装・カメラ視点など)で検索して、“似たような”キャラクターがずらっと一覧化されるものなのだ。

 「あいまいな情報から、過去のキャラクター資産を検索できる仕組みが求められていた」とMIXI 開発本部AIモデリンググループ 楊景氏は語る。

MIXI 開発本部 AIモデリンググループ 楊景氏がセミナーに登壇した(提供:MIXI、以下同)

年間297時間の削減見込み 画像とテキスト両方で判断するのがミソ 

 デザイナーの要望を受け、楊氏が開発した類似キャラクター検索システムは、どのようなものか。

 例えば「熊が映っているキャラクター」と検索してみると、次のようにキャラクターのカードが並ぶ形で検索結果が出てくる。

「熊が映っているキャラクター」と検索した結果

 一見すると「どこが熊?」と思えるものもあるが、これがミソだ。一番左のキャラクターはよく見ると、背景に熊の霊体が描かれている。その隣のキャラクターには“惑星中の動物を率いて歩く”という設定があり、右下に小熊がいる。同様に、左から3番目は熊っぽいぬいぐるみの上に乗っているし、左から4番目は熊が一輪車に乗っている。

 さらに右から2番目は“人の姿となったテディベアの少女”であり、熊のフードがついた服を着ているし、一番右は熊のような足跡が描写されている。

 このように必ずしも熊そのものが描かれていなくても、ちゃんと検索でヒットするように、楊氏はさまざまな工夫を施している。

 例えば、AIにキャラクターのイラストを渡して、それに含まれる情報を直接ベクトル化(テキストや画像などのデータを、AIが理解・処理できる「数値の配列」(ベクトル)に変換すること)するのではなく、まず「キャラドキュメント」(キャラクターのデザイン要素を箇条書きでまとめたテキスト)をAIで生成。“人間が確認・修正したうえでベクトル化する”というワンクッションを挟むようにしている。

キャラクターのイラストからテキストを抽出。人間が確認・修正したうえでベクトル化する”というワンクッションを挟むようにしている

 キャラドキュメントを生成する際のデータソースには、キャラクターの「イラスト」だけでなく、モンストディクショナリーに記載されている「設定情報」や、性別・属性・種族・進化状態・リリース日などの「ゲームデータ」も含まれる。

 こうしてイラストから読み取れる情報だけでなく、人間が規定した情報もキャラクター資産として保管しておくことで、検索の精度が高まる。さらに「なぜヒットしたか」を説明できるようにもなるため、検索結果に対する納得感が上がる。

 結果、この類似キャラクター検索システムによって、年間297時間の作業時間削減につながる見込みであり、キャラクター制作の効率化に大きく貢献したという。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR