アクションプランの取り組みに対する評価方法も見直しました。他の自治体では、情報化計画において現実的には達成が難しい目標が掲げられ(多くは国が示す自治体DX推進計画の重点項目に関連しています)、その未達によって職員が責められる、という姿を目にします。このようなことを避けるため、一部の自治体では「情報化計画の中で、評価の逃げ道がないような定量目標を設定しない」といった対応を取っていますが、筆者から言わせれば、それでは本来の目的から外れてしまいます。
このように計画が息苦しくなってしまうのはなぜでしょうか?
それは「取り組み指標」(KPI)と「成果指標」(KGI)を混同しているからです。KPIとKGIについては、以前の記事(参考:自治体の「DX推進計画」が失敗するのはなぜ? 評価指標を生成AIで正しく設定する方法)でも書いたのですが、自分たちで制御可能な指標をKPI、制御できない指標をKGIと考えてもらえると分かりやすいでしょう。
なぜKPIとKGIを混同していたのかというと、昔はKPIが高まればKGIも自動的に高まるような先の見通しが立つ仕事(インフラ整備など)が多かったからではないかと考えています。
越谷市での取り組みは始まったばかりで、今後の展開を見守る段階ですが、職員向けの説明会では筆者から「たとえKGIが達成できなくても、それを責めることはしません。もし皆さんの上司が責めるようなことがあれば、私は全力でそれを止めます」とお伝えしています。一方で「一度掲げたKPIについては必ず実行してください。実現が難しい約束はしないように」ともお願いしています。
説明会では、職員の皆さんに対してもう一つ大切なメッセージを伝えています。
「自分のためだけでなく、誰かの役に立つと思ったことは、ぜひ遠慮せずに声を上げてください」
これは私自身の経験に基づいていますが、日々の業務に携わる立場だと、現状が当たり前になってしまい、改善の必要性に気付きにくいことがよくあります。むしろ、外部の視点を持つ人の方が、意外な改善点に気付いたり、具体的なアイデアを思い付いたりすることも珍しくありません。
もちろん、直接関わっていない人から自分の仕事についてあれこれ言われると、不快に感じることがあるのも理解できます。
また、声を上げた職員に責任が集中するような雰囲気になると、組織全体が萎縮し、結果として誰も発言しなくなってしまいます。
そこで、改善のための取り組みを決めるのは、当事者ではなく庁内横断的な組織(主に各部の部長がメンバーとなっている)に委ねる制度にしています。
やるべきかどうかは全庁的な組織で判断します。その後、プロジェクトのメンバーが選出され、実際に行動するのは指名された職員が担います。ただし、最初から大きなKGIやKPIを設定せず、自分たちが手の届く範囲から試行的に取り組むことを重視しています。また、これらの取り組みは正規の業務として位置付け、必要となる人的リソースや予算についてもプロジェクトを担当する部署が責任を持って管理する体制としています。
小さく始めるのには明確な理由があります。最初から大きなKGIやKPIといった目標を掲げてしまうと、うまくいかなかった際に軌道修正が難しくなるからです。
行政機関が失敗を過度に恐れる背景には、多額の投資を伴うことが多いという事情があると筆者は考えています。そのため、事前に綿密な準備を重ね「一度で成功しなければならない」というプレッシャーの下で事業を進める傾向が見られます。しかし、外的な要因で失敗する可能性は十分にあるので、ある程度失敗を織り込んでおくことは必要なのではないかと考えています。
その時に筆者が説明するのが「ベルヌーイ試行」という考え方です。
この方法では、例えば、成功確率が30%の事業に1000万円を一度に投資するのではなく、100万円ずつ10回に分けて投資します。10回試せば、少なくとも1回は成功する確率が97%にまで高まります。つまり、小規模な取り組みを複数回実施することによって、過度なプレッシャーから解放されるだけでなく、成功のチャンスも大きく広がるのです。こうした考え方は、もっと多くの場面で活用されても良いのではないかと感じています。
もちろん、筆者の考えが甘く、越谷市の情報化推進計画も大きく見直しが必要になる可能性もあります。それでも、職員主体で自ら改善のサイクルを回せるよう、筆者も積極的に関わっていきたいと考えています。
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