昔の海外旅行パンフレットは、とにかく空が青かった。そして、なぜか誰もいなかった。
パリのエッフェル塔も、シドニーのオペラハウスも、グアムのビーチも、まるで世界に自分しかいないかのような写真ばかりである。今思うと、「この観光地、ゴーストタウンではないの?」と心配になるほど人の気配がなかった。
ところが最近の写真は、絶景そのものを見せなくなってきた。古民家カフェでぼーっとする女性、商店街でカニを買うカップル、サウナ後に川辺で外気浴する男性。旅行写真の主役は、いつの間にか「景色」から「人」へ変わっていたのだ。なぜなのか。
写真・イラスト素材サイト「PIXTA」を運営するピクスタ(東京都渋谷区)が公開した20年分の分析データが興味深い。同社は2006年のサービス開始以来、1億点以上の画像データを蓄積してきた。その売れ筋素材や検索ワードを分析すると、日本人の旅行観そのものが大きく変化していたのである。
かつて、日本人の旅行といえば、団体で同じ場所へ行くことが多かった。団体バスに添乗員が乗っていて、道中の案内を受けながら、熱海の旅館に到着。夜は、宴会とカラオケといった流れである。
しばらく”ザ・昭和”なスタイルが続いたわけだが、バブル期には円高の影響もあって、海外旅行がブームに。『地球の歩き方』を片手に、海外を旅した人も多いはずだ。
ピクスタがサービスを始めた当初、どのような写真が人気だったのか。誰もいない海外の絶景である。ハワイのビーチやイタリアのフィレンツェなど、有名観光地の風景が目立っていた。広告の素材として求められていたのは、とにかく「非日常」だったのだ。
当時は、まだスマートフォンが普及していなかったので、旅行会社の窓口でパッケージツアーを申し込み、ガイドブックを片手に観光地を巡る人が多かった。LCCが普及していなかったこともあって、飛行機に乗ること自体が特別な体験だった。というわけで、飛行機の写真も人気だった。
ピクスタの加藤あす香さん(事業本部長)によると「当時、旅といえば“日常からの脱出”という感覚が強かったですね。憧れの飛行機に乗って、有名な観光地を巡る。現地で撮った写真をPCに保存し、ブログで公開する人が多かったです」と振り返る。
なるほど。だから昔の旅行の広告は、やたらキラキラしていたのかもしれない。洗濯物も電柱も映っていない。生活感が徹底的に排除されていたのだ。
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