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NVIDIAと共闘するマスク、出遅れたOpenAI 「宇宙データセンター」が起こすAI業界のゲームチェンジ

» 2026年04月17日 07時00分 公開
[湯川鶴章、エクサウィザーズ AI新聞編集長]
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 AIデータセンターの建設ラッシュが続く中で、豊富な電力資源を求めて大気圏外にソーラーパネルを搭載したAIデータセンターを開発しようという計画が進んでいる。

 米シリコンバレーのギャビン・ベーカー(Gavin Baker)氏は「今後3〜4年間、世界にとって最も重要なのは宇宙データセンターだ」と語る。国家間、企業間の競争の舞台が宇宙データセンターに移行するという意味だ。現時点での米中およびテック大手の宇宙データセンター計画の現状をまとめてみた。

 地上のデータセンターのみならず、宇宙にまでデータセンターを建設しなければならないのはなぜなのか。宇宙にデータセンターを建設するメリットや課題にはどんなものがあるのだろうか。

米SpaceXが、木星の衛星エウロパ探索ミッション「Europa Clipper」の打ち上げロケットとして打ち上げた「Falcon Heavy」(写真提供:ゲッティイメージズ)

AIの進化を阻む「電力と排熱の壁」 インフラが宇宙へ向かう必然性

 AIを動かすには電力が必要だが、AIモデルの巨大化が進む中でAIモデルをトレーニングする際にも、実際にAIモデルを利用する際よりも膨大な電力が必要になってきている。

 電力会社から供給される電力だけでは不足するようになり、データセンターに発電施設を併設するケースが増えている。ただし環境への悪影響の懸念から地上でのデータセンター建設に対する反発もあり、なかなか思うように建設が進まないのが現状だ。

 しかし、宇宙なら豊富な太陽光エネルギーがある。宇宙には無限の冷たさがあるので、工夫次第で排熱の問題も解決する。物理的な立地スペースの問題もない。ベーカー氏は「AIをさらに進化させるには、半導体ではなく電力と冷却が制約条件。宇宙データセンターは必然だ」と語っている。

太陽は「無料の核融合炉」 マスク氏とNVIDIAの強力なスクラム

 イーロン・マスク氏は「太陽は、空に浮かぶ巨大で無料の核融合炉。地球上で小さな核融合炉を作るなんてバカな話だ」とX上に投稿している。

 こうした発言を裏付けるように、マスク氏の動きが最も早い。同氏は既に6000基以上の人工衛星を大気圏外に保有し、消費者向けのネット接続サービス「Starlink」と、米政府向けの計算基盤「Starshield」を運用している。

 マスク氏と歩調を合わせるように進んでいるのが、半導体大手の米NVIDIAだ。同社は、自社のベンチャー支援プログラムの参加企業である米Starcloudを支援。Starcloudは11月に、マスク氏のロケット会社SpaceXのロケットに、NVIDIAの半導体、ソーラーパネル、バッテリー、放熱構造を含む冷蔵庫大の衛星の打ち上げ実験に成功している。

 Starcloudの成功を受けてマスク氏は、来年から運用が始まる次世代ロケットStarshipを用いて、今後は毎年100GW(ギガワット)の発電能力を、宇宙データセンターに追加し続ける計画だという。米国全体の平均消費電力が460GWだから、計画通りに進めば宇宙データセンターは、5年で米国の地上の発電量を超えることになる。 

 NVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏は、マスク氏の経営手腕を高く評価している。「マスク氏の全てのプロジェクトに関与していきたい」と語っていることから、2社はスクラムを組んで宇宙データセンター計画を推し進めることになりそうだ。

NVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン氏は、マスク氏の経営手腕を高く評価している(米カリフォルニア州サンタクララのNVIDIA本社、写真提供:ゲッティイメージズ)

独走するマスク、出遅れるOpenAI テック大手と中国の「陣取り合戦」

 こうしたマスク氏とNVIDIAの動きを受けて、その他のテック大手企業も次々と宇宙データセンター計画を発表している。

 米Googleは2025年11月、同社の宇宙データセンター計画「SunCatcher」の詳細を発表。太陽光発電をする小型衛星群に自社半導体、TPUを搭載し、光通信で相互接続する計画だという。

 Googleはロケット打ち上げ会社を持っていないため、地球観測衛星の打ち上げで実績のある米Planet Labsと提携。TPUをPlanet Labsの衛星バスに搭載し、2027年初頭にプロトタイプ衛星2機を打ち上げる予定だという。

 米Amazonの創業者、ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)氏も、ロケット打ち上げ会社である米Blue Originを保有している。Blue Originは2025年11月に、ロケット打ち上げからデータセンター構築へと、その業務内容の軸足を移した。3236機の衛星からなるネットワークを構築し、高速かつ低遅延のブロードバンド接続を提供する計画だという。

 一方、米OpenAIのSam Altman(サム・アルトマン)氏は、インタビューなどで宇宙データセンターの需要性について言及したことがある。だが、宇宙データセンターに関する正式発表はまだない。米Stoke Spaceというロケット会社と交渉はしていたものの、投資や、買収、提携などの話は成立しなかったもようだ。

米OpenAIのサム・アルトマンCEOは、宇宙データセンターの需要性について言及したことがある(2023年6月、東京・慶応義塾大学にて撮影:武田信晃)

 イーロン・マスク氏にとっては、ロケット会社SpaceXや、衛星ネット接続のStarlink、政府向けのStarshield、AIモデルのxAIなど、これまで進めてきた事業が、宇宙データセンターというパズルのピースとしてうまく組み合わさる形だ。

 NVIDIAはマスク氏の動きに便乗し、Google、Amazonはマスク氏を追いかけ、OpenAIは現時点では後手に回っている印象だ。

 一方、こうした米国の動きよりさらに先行するのが中国。NVIDIAとStarcloudが11月2日に、1基のAIデータセンター衛星の打ち上げに成功した。その半年前の5月14日に、中国の国星宇航(ADASpace)が、12機のAI衛星の打ち上げに成功している。

 といっても、StarcloudのAI衛星に搭載されている半導体は、中国国星宇航の半導体の約10倍の性能を誇る。また、打ち上げ体制も中国は急ピッチで拡充しているものの、米国のSpaceXの「毎週打ち上げ」というペースには、まだまだ追いつけそうにない。宇宙データセンターの実装に関しては、米国があっという間に中国を追い抜きそうだ。

 データセンターを制する者がAIを制す。そう言われる中で、ついに競争の舞台は宇宙へと広がったようだ。

本記事は、エクサウィザーズが法人向けChatGPT「exaBase 生成AI」の利用者向けに提供しているAI新聞「AIインフラは宇宙へ」(2025年12月22日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

著者プロフィール

湯川鶴章

AIスタートアップのエクサウィザーズ AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。17年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(15年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(07年)、『ネットは新聞を殺すのか』(03年)などがある。


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