デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
米OpenAIや米Googleがショッピング支援機能を相次いで強化しました。生活者が対話型AIに「子どもの遠足向きのおやつ、アレルギー対応で」などと聞く日が近づいています。
この際に、AIエージェントが参照するのは、整備された商品データです。属性が欠落し、表記が揺れ、部門ごとにサイロ化したマスタデータでは、そもそも購買候補に挙がりません。
あなたの会社の商品マスタは、AIが「読める」状態になっているでしょうか。
この危機感を察知し、いち早く行動に移したのが米Walmart(ウォルマート)です。同社は2024年8月の決算説明会で、生成AIを使い、商品カタログ内の8.5億超のデータ項目を作成・改善したと公表しました(※)。手作業なら同期間で約100倍の人員が必要だったといいます。CEOのダグ・マクミロン氏は「生成AIで顧客・会員・従業員の体験を改善する具体的な方法を見いだしています」と述べています。
※参照:Walmart used AI to crunch 850M product data points and improve CX
多くの日本企業では、メーカー、卸、小売と流通各社が独自フォーマットで個別管理をしている状態が続いています。今回は、日本企業がこの長年の課題を解消し、AI時代に勝ち抜くために必要な商品情報の整備を進める方法を紹介します。
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」シニアフェロー Nextリテール分科会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質2025DX』
同社が整備した中核は、PDP(Product Detail Page、商品詳細ページ)そのものではなく、PDPを支える商品カタログ、すなわち商品データ基盤です。商品名、サイズ、色、素材などの属性情報を大規模言語モデル(LLM)で抽出・検証し、カタログを「信頼できる唯一の情報源」に近づけています。
ウォルマートは、数十億件の商品属性データを管理するため、LLMを2段階で活用しています(※)。
※参照:How Walmart uses LLMs to manage its massive product catalogs
第1段階では、テキストや画像から色・サイズ・素材などの属性を自動抽出します。第2段階では、別のLLM(品質チェックエージェント)を使用し、人間の専門家が設定した正・誤・中間の正解ラベルで微調整し、精度閾値(属性により90〜95%)を下回る属性を重点的にフィルタリングします。このライターとエディターの分離構成が精度向上の核心です。
LLMの精度が90%でも、100万SKU規模なら10万件の誤りが残ります。品質チェック専用モデルの構築と、属性定義・正解データの整備こそが、商品マスタの信頼性を決定付ける最重要施策といえます。
ドイツ発祥のディスカウント食品スーパーで、世界第4位の小売企業(NRF 2025年版、売り上げ約1550億ドル)である「ALDI」(アルディ)も、生成AIを活用しデジタルチャネル向けの商品説明文作成と商品属性補完を自動化しました。SEO・多言語対応・商品発見性の改善を進めています(※)。
米NVIDIAは2026年1月、商品画像から属性補完や説明文生成を自動化する「Retail Catalog Enrichment Blueprint」を公開。AmazonがNVIDIAのGPUとLLMを活用して、最適化された商品コンテンツを大規模に自動生成することで、数百万の販売者がより充実した商品情報をより迅速に公開できるよう支援している事例を紹介しました。
これらに共通するのは「商品データの品質がECの売り上げと顧客体験を左右する」という明確な認識です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング