小売現場では、販売スタッフのKPIを「売り上げ」に設定する企業も多い。一方で、直営店を持つ化粧品メーカーのファンケル(横浜市)は「売らない勇気」という接客方針を掲げ、個人の売り上げ目標、いわゆる“ノルマ”を設けていない。
同社では、直営店やコンタクトセンターで働くスタッフ向けに、AIを相手に顧客対応を学ぶ「AIロープレ」(AIロールプレイング)を導入。
AIロープレでは「売らない接客」をスタッフに浸透させるため、単なる接客スキルの習得にとどまらず、“ファンケルならでは”の価値観の体現も評価・フィードバックの対象としているという。
2026年の春からは、販売スタッフとして配属された新入社員の教育にも、AIロープレを活用している。
果たして、AIは同社が大切にする「売らない勇気」や「顧客への共感」を新人に伝えていくことができるのだろうか。
従来、同社では新人スタッフを教育する際、先輩社員が顧客役としてマンツーマンでロールプレイングを実施していた。
手厚い指導ができる反面、店頭業務の合間を縫って取り組むため、リソースに限界があった。入社したばかりの新入社員が、多忙な先輩社員に時間をもらうのも勇気がいるだろう。
また、指導者ごとの「評価のバラつき」や失敗を繰り返すことによる受講生の心理的負担も課題となっていた。
「先輩の貴重な時間を奪ってしまうという申し訳なさから、練習を遠慮してしまう新人もいました」と、AIロープレの導入を主導した柳麻由さん(人材本部 ファンケル大学コンタクトセンターG トレーナー)は話す。
こうした課題を解決するため、同社はAIの活用に着目した。
実際のAIロープレは、以下のような流れで実施する。
AI:すみません。クレンジングって、ここに並んでいるものが全てですか?
受講者:ご質問ありがとうございます。クレンジングの商品でしたら、こちらの棚にございます2点でございます。
AI:ありがとうございます。SNSで見て気になったものがあって。これってどう違うんですか。
受講者:SNSで見て、ご来店いただいたのですね。ありがとうございます。こちらのクレンジングですが〜〜〜〜
(略)
このように、AIアバターが顧客役を担い、受講生が店頭販売やコンタクトセンターのスタッフとして応対する。
シナリオは初級から上級まで段階的に用意され、実務に近い場面を設定している。AIが応答を調整することで、会話にはランダム性が生まれる。
対話が終わると、応対内容は点数化され、具体的な改善点や模範例が提示される。さらに会話が文字起こしされるので、自身の口癖や敬語などの言葉遣いを振り返ることができる。また、管理者がダッシュボードを通じて、各スタッフの練習量や苦手項目を把握することも可能だ。
特徴的なのは、評価基準に同社の理念が組み込まれている点だ。ファンケルには「売らない勇気」という接客方針があり、店頭スタッフ個人の売り上げ目標は設けていない。
「お客さまのお悩みに寄り添い、喜んでいただけたという声が届くことが、スタッフの評価に大きくつながります」(柳さん)
必要であれば自社商品を無理に勧めないというスタンスだ。AIロープレも、この価値観を体現する設計になっている。単に正しく対応できたかだけでなく「顧客の意向を尊重しているか」「共感の言葉を返しているか」といった観点を重視する。
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