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「AI研修を1コマ追加」では変わらない 新入社員を戦力にする教育設計AI・DX時代に“勝てる組織”(2/3 ページ)

» 2026年04月30日 09時00分 公開
[小出翔ITmedia]

先行企業に学ぶ、新人教育の実装モデル

 先行企業は、このようなポイントを、いかに現場に実装しているのでしょうか。アプローチ別に具体的な事例と、その裏にある実務の壁を見ていきます。

入社初期から実務環境を提供する

 一部の企業は、入社直後から育成する体制を整えています。総合金融機関の米JPMorgan Chaseは2024年のInvestor Dayにおいて、入社する社員にプロンプトエンジニアリングのトレーニングを実施すると表明し、少なくともアセット&ウェルスマネジメント部門の新任アナリスト訓練で組み込んでいます。並行して全社レベルでは、社内向けに開発した生成AIチャットボットプラットフォーム「LLM Suite」を20万人超の社員に展開し、安全な環境での利用を進めています。

 米Microsoftも、早期キャリア育成プログラムを用意して、入社初期からツールに触れさせ、スキル構築のためのキャリアパスを用意しています。この育成プログラムは、入社数週間の導入研修だけで終わらせるのではなく、年単位の育成プロセスを設計しています。

 ツールを渡すだけで全員が使いこなせるわけではありません。「とりあえず使ってみて」と放り投げると、得意な若手だけが伸び、苦手な層がすっぽり抜け落ちてしまいます。これらの企業が初期から手厚く環境を整備するのは、そうした脱落を防ぐ意図があります。

業務別・職種別の実務に直結させる

 日立製作所は、2025年度の新人導入研修において、プログラミング言語の「COBOL」と生成AIを組み合わせたプログラムを実施しています。コードの解説やテストコード生成、デバッグといった実際の開発工程をどう進めるかを、現場の開発環境上で教えています。抽象的なプロンプトのコツを教えるのではなく、レガシーシステム開発という泥臭い仕事に即した演習を組むことで、現場配属後の「研修でやったことと違う」というギャップを減らしています。

 また、NTTデータは顧客向けのPoC事例として、金融機関の法人営業において事前情報収集や商談資料作成を生成AIやAIエージェントが支援し、若手でもベテランの営業活動に近づける狙いです。

 しかし実際の現場では「ツールが作った資料では顧客に出せない」「若手には一から苦労して作らせるべきだ」といった抵抗が起きがちです。ここを乗り越えるには、新しいフローを現場の管理職が受け入れる姿勢が必要になります。

OJTによる属人化を削減する

 米国の小売り大手、Walmartのテクノロジー部門であるWalmart Global Techは、社内の膨大な量の資料や過去のコードと連携したAIアシスタントを導入しています。エンジニアは同社特有の疑問をAIアシスタントに聞くことができます。これによって、若手エンジニアが先輩に基礎的な質問をする時間を減らせるため、現場の負担軽減にも直結しています。

 製造や現場作業の領域でも動きがあります。富士通と医薬品メーカーの日医工(富山市)は、ベテラン技術者の作業映像をAIに学習させ、経験の浅い技術者の映像と並べて比較や指導をする仕組みの共同実証実験を進めています。

 日立製作所は、熟練作業員の安全確認の知見を学習したAIエージェントとデジタルツインを活用し、作業者の経験レベルや作業内容に応じて手順や注意点を視覚的に提示するソリューションを展開しています。新人向けの教育プログラムでの活用も想定しており、口頭伝達の限界をデジタル技術で補完する取り組みです。

 また、米国のバイオ医薬品メーカーであるMerckは、新設するワクチン製造拠点において、生成AIやデジタルツインを備えたトレーニングセンターで新入社員の訓練を加速すると発表しました。

 「背中を見て学べ」「何度もやって体で覚えろ」という職人的な文化が残る現場では、動画やデジタルツインの導入自体に反発が出ることが多々あります。しかし、この属人化を解きほぐさなければ、人材育成のスピードは上がりません。

ガバナンス構築と運営側の工数削減

 スイスに拠点を置く大手金融機関UBSは、2024年のサステナビリティレポートで、責任あるAI活用に関するトレーニングを全社員向けに開始したとしています。スキル研修の前に、社内で許される使い方と禁止事項の線引きを標準化する取り組みです。ここを怠るとシャドーITや情報漏えいのリスクが高まるため、初期段階でのルールの刷り込みが欠かせません。

 また、指導する側の負荷を下げるアプローチもあります。ソフトバンクのコンタクトセンターを運営するSBモバイルサービス(東京都港区)では、新人研修の質疑応答やテスト作成をAIが支援し、講師の工数削減と教育品質の均一化を図りました。生まれた時間を新人のケアに充てることで、教える側の疲弊を防ぎつつ、対話の時間を確保しています。人事や研修担当者が自身の業務を効率化できて初めて、新人のケアに時間を割く余裕が生まれます。

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