中東情勢の悪化に伴うホルムズ海峡の封鎖によって、石油やLNG(液化天然ガス)の輸入が滞っている。石油由来の素材を使う製品の価格が上昇し、ビジネスや生活に支障が出始めた。ガソリンや電力などエネルギー供給への影響も懸念されている。
「誰もがあり得ないと思っていたホルムズ海峡封鎖が起きてしまった」「日本は資源を持っておらず、経済への影響が大きい。今回の事態を踏まえて、中長期的なエネルギーバランスの在り方を見直す必要があるのではないか」――こう話したのは、国内最大規模のシェアを持つ発電大手・電源開発(J-POWER)の加藤英彰代表取締役社長だ。5月12日の決算発表会で述べた。
電力供給の不安定化が危惧される中、政府は3月に“ある措置”を講じた。日本の電力を巡って今、何が起きているのか。加藤社長が語った。
J-POWERは、戦後復興期の電力不足を賄うために国策として設立された。現在は、国内100カ所以上の発電所でつくった電気を、東京電力などの電力会社に販売している。電源種類別では、石炭火力発電は国内シェア1位、水力・風力発電はともに国内シェア2位を誇る。
2026年3月期の連結決算において、売上高は1兆1822億円、経常利益は1585億円だった。2027年3月期の売上高は、前期に対して16.7%増の1兆3800億円を見込む。中東情勢の緊迫化による電力販売価格の上昇の影響で増収になる見通しだ。
電力を巡る現状について、決算発表会における加藤社長の発言を抜粋して紹介する。
加藤社長 原油やLNGほど石炭価格が上昇していない。石炭は(オーストラリアやインドネシアなど)地政学リスクが低い場所にある。資源がない日本の電力市場において石炭火力発電は有効な電源になるため、一時的には当社にとって追い風になっている。
アジア各国で、石油に代わって石炭の確保に動いているが、市場価格が厳しくなるほどの感触はない。中国側が石炭の輸入にどこまで意欲を出すかに大きく左右される。
加藤社長 (国内火力発電の主燃料がLNGであるため)日本の電力価格は、LNGの輸入価格で決まる。LNG価格の上昇に対して、石炭価格はそこまで上がっていないため、(石炭火力発電を主力として電力販売を手掛ける当社にとっては)差額が利益になる。プラスの影響だが、いつまで続くかは未知数だ。
経済産業省はこれまで、二酸化炭素の排出量が多い「非効率石炭火力」による発電量を減らす政策を続けてきた。発電事業者は、発電設備の年間稼働率を50%に抑える必要があり、超過すると設備維持費に当たる「容量確保金」を20%減額される。
中東情勢の緊迫化によって、国内発電量の約30%を占めるLNGの調達が厳しくなったことを受けて、経産省と資源エネルギー庁は3月27日に「稼働抑制措置を、緊急的な対応として2026年度においては適用しない」と決定した(資源エネルギー庁「燃料調達をめぐる動向と電力・ガスの安定供給について」より)。
加藤社長 (今回の対応を受けて)石炭火力発電所の稼働率が上昇すると予想されるが、現時点で「何%増える」と見立てていない。
日本のエネルギー政策に従わなければならないが、脱炭素と電力安定供給の間で整合性が取れていないのは事実だ。石炭火力発電を増やせば二酸化炭素が大量に出る。二酸化炭素の排出量取引制度(GX-ETS)の無償排出枠があるが、それを超えた分のコスト負担は誰が責任を持ってくれるのか。状況を国にも見極めてほしいし、われわれもうまく対応する。
(石炭火力発電量を増やすよう強制されれば)無償排出枠を超えてしまう可能性がある。現時点では、そうした要請は来ていない。
加藤社長 エネルギー政策の基本は「3E+S」(安定供給:Energy Security、経済効率性:Economic Efficiency、環境適合:Environment、安全性:Safety)だ。各国の状況に応じて「E」の重心が変わってくる。過去数年は、世界的に「環境適合」を重視していた。
ロシア・ウクライナ紛争を受けて、欧州を中心に「経済性」「安全性」に重心が移ってきた。ホルムズ海峡封鎖によって、アジアでも安全性を重視する動きが出ている。こうした状況で、発電事業を営む企業として何がふさわしいか考えていく。
加藤社長 誰もがあり得ないと思っていたホルムズ海峡封鎖が起きてしまい、もし明日解決したとしても「また起きるかもしれない」という危機感が残る。日本は、どのようなエネルギー構成を選択すべきなのか。
石炭を本当に廃止して良いのか。米国のドナルド・トランプ大統領は「化石燃料を掘れ」と言っているが、こうした事態に直面すると再生可能エネルギーや原子力発電など、自給率の高いエネルギー源を持つべきではないか。あるいは「備蓄を増やそう」という動きになるかもしれない。この後どうなるか見極めるのが難しい。
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