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就職氷河期の「埋もれた才能」を狙え 人手不足を打破する“正社員の特殊性”からの脱却働き方の見取り図(3/3 ページ)

» 2026年05月14日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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本質的な問題は「再挑戦できない社会」

 就職氷河期問題がもたらした最大の教訓は、初期の就職活動でのつまずきによってキャリアの再構築を余儀なくされた人々(=「就活リスタート者」)が、生涯にわたって厳しい状況に置かれ続けるという仕組みの瑕疵(かし)にあります。

 無職の期間が長引いたり、不本意な非正規雇用に就いたりすることで、昇進・昇格の機会を逃し、将来的に受け取れる年金額にも影響が出るといった懸念が指摘されてきました。

 就活リスタート者が多く生まれたのが就職氷河期であり、この教訓を生かすのであれば、新たな就職氷河期世代を生み出さない仕組み作りが最優先事項となるはずです。第一の弊害で指摘した雇用システムの抜本的な変革です。

 問題の根幹は就職氷河期が生み出される“仕組み”にあるにもかかわらず、氷河期という“世代”の問題にすり替えてしまって後付け支援ばかりしていては、新たな就職氷河期が生まれ続けて当然です。

 雇用システムの変革には時間がかかるため、その間はどうしても新たな就職氷河期世代が生まれるリスクを完全には避けられません。次善策は、新たに生まれてしまった就職氷河期世代への素早い支援です。

 例えば、就職者割合に「75%未満」といった一定の基準値を設ける方法があります。基準を下回った世代に対しては、20年も経ってからではなく、即座に「就労・処遇改善に向けた支援」「社会参加に向けた段階的支援」といった政府が取り組んでいるプログラムを提供するなどの方法が考えられます。

 ただ、社会の構造的不利益を被りやすい就活リスタート者はどの世代にも一定数存在することを踏まえると、やはり世代を限定した施策自体に限界があります。「就労・処遇改善に向けた支援」などの施策は、全世代にわたる就活リスタート者に提供されるべきでしょう。その結果として、就職者割合が低い世代には相対的に多くの支援が行き渡ります。

 現在、政府が取り組む就職氷河期世代支援策は、該当する世代固有の問題へと狭く捉えたことで、本来向き合うべき問題の解決になっていません。取り組まなければならないのは、雇用システムの改善に着手し、全世代の就活リスタート者を支援し、新たな就職氷河期を生み出さないための施策です。

 いつまでも就職氷河期世代限定の支援を続けて、根本的な問題解決に踏み込まないままでは、あたかも本質的な対策を講じているかのように見せる「氷河期ウォッシング」と受け取られても仕方ないのではないでしょうか。

「就社」から「就職」へ 会社に求められる雇用改革

 一方、個々の会社にできることは限られています。

 例えば、非正規社員から正社員になるハードルが高い問題。大きな壁になっているのは、担当する職務を定めて“就職”するのではなく、雇用期間も職務範囲も勤務地も無限定で、会社の一員であることにコミットする“就社”の概念に近い正社員の特殊性です。

 この場合、どうしても個々の技能や経歴よりも、社歴の長さが重視されてしまい「新卒時の不遇」という本人の努力ではどうにもならない事情がもたらした「キャリアの空白期間」や「非正規歴」などの要素で差が生じやすくなります。

 無期雇用であっても、職務範囲や勤務地などを限定した就職型の契約自体は可能です。しかし、いまの法制度や判例は就社型を前提とした形になっており、限定した職務が提供できなくなった際の配置転換や解雇などのルール整備が追いついていません。

 それでも、制度が整うのを待つだけでは前に進めないのも事実です。労働契約書の内容を見直して就社型から就職型へと修正し、正社員と非正規社員の中間的な雇用形態を創出する取り組みにチャレンジする会社が増えていけば、法制度や判例も事業現場の実情に合わせて整備する必要性が高まります。

 結果、社歴の長さに惑わされず、個々の技能や経歴が純粋に評価されることにつながれば、仕組みの瑕疵(かし)によって埋もれざるを得なかった就活リスタート者からも優秀な人材を発掘しやすくなることが期待できます。

 会社にとっても働き手にとってもWin-Winとなり、就職氷河期問題の解決にも寄与することになるのではないでしょうか。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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