大人の泥団子づくりに1000人のキャンセル待ち ルクア大阪の体験に人が殺到する理由(1/3 ページ)

» 2026年05月21日 07時30分 公開
[大久保崇ITmedia]

 マーケティングの現場では「顧客インサイト」の重要性が長らく指摘されてきたが、消費者自身も言語化できていない本音を捉え、商品やサービスに落とし込むのは簡単ではない。そんな中、その問いに独自の答えを示している商業施設がある。大阪駅直結の「ルクア大阪」を運営する、JR西日本SC開発の「トキメキ事業グループ」だ。

 2026年2月、同グループが企画したイベント「大人のためのムダに没入するどろだんご」が話題を呼んだ。2時間かけて自分だけの泥団子を作り、それをひたすら磨くという内容だが、予約開始直後に完売。キャンセル待ちは1000人超に上った。反響の大きさから、当初は各回定員を10人として1日に3回開催の予定だったが、急きょ2日間に増枠し、定員も15人に増やした。

泥団子づくり。砂場研究家の「どろだんご先生」を講師に招いた(画像:トキメキ事業グループ提供)

 同グループはこれまでも、参加者をほめる「ほめるBar」や、お坊さんに悩み相談ができる「お坊さん喫茶」などのイベントを企画してきた。こうした取り組みが参加者に支持されたり、社内から評価されたりして、2025年秋に独立部署へ昇格した。

 一見すると売り上げに直結しない取り組みにみえるが、なぜ社内で評価され、独立部署へと昇格したのか。さらに、なぜここまで多くの参加者を集める体験が生まれているのか、トキメキ事業グループに話を聞いた。

正体を隠してInstagramで本音集め

 トキメキ事業グループは、イベントなどの体験を通じてルクア大阪のブランド思想を顧客と社員に届ける部署だ。根幹にあるのは「お客さまの気持ちをケアする」という考え方。「ちゃんとしなければならない」「効率的であるべき」といった日常のプレッシャーから解放され、自分を肯定できるような体験づくりを重視している。

 もっとも、組織が当初からこうした役割を担っていたわけではない。現在のトキメキ事業グループの原型は、2019年に販売促進グループ内で始まったプロジェクトだった。

 当時、販売促進グループとして、ルクア大阪のPR業務を担当していた大垣晃子氏(現トキメキ事業グループ マネージャー)は「当時、商業施設の『限定何個』『バーゲン』『ポイントアップ』といった消費を煽(あお)る販売促進が、お客さまに響かなくなっている感覚がありました。一方で、お客さまが何を求めているのかも分かりませんでした」と振り返る。

 顧客の考えが分からないなら、直接聞いてみるしかない――そう考えて、Instagramアカウント「トキメキデパート」を立ち上げた。

トキメキデパートというアカウント名でInstagramを立ち上げた。現在は1.9万人のフォロワーを抱える(画像:トキメキ事業部 公式Instagramより)

 アカウントでは、ルクア大阪の名前は伏せ、商品の宣伝も行わなかった。イラストレーターと組み、「夜眠る前に、好きな人から言われるとキュンとする一言」など、日常の感情を募集。寄せられた声をイラスト化するなど、生活者の本音が自然と集まる場としてアカウントを育てていった。フォロワーが1万人を超えた段階で、運営元がルクア大阪であることを明かした。

 なぜ、正体を隠していたのか。

 「ルクア大阪に来ていない時間に、お客さまが何を思い、どんな気持ちを抱えているのかを知りたかったんです。発信メディアではなく、お客さまの気持ちを受信するメディアでありたかった」(大垣氏)

 集まったのは、20〜30代女性のたくさんの生の声だ。日々の生活の中で何に息苦しさを感じ、本当はどうしたいと思っているのか。そうした声に触れていく中、ある日投げかけた「欲しいものは何ですか?」という質問への回答の中に、大垣氏の目を引くコメントがあった。

 彼氏、お金、時間といった答えが並ぶ中、「ほめられたい」と書き込んだ人がいた。

 「正直、そんなコメントが来るとは思わずに質問していたのですが、見た瞬間に『これだ』と、私自身がすごく共感したんです。今必要なのって、まさにこれだよねって」(大垣氏)

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