「あの商品はどうして人気?」「あのブームはなぜ起きた?」その裏側にはユーザーの心を掴む仕掛けがある──。この連載では、アプリやサービスのユーザー体験(UX)を考える専門家、グッドパッチのUXデザイナーが今話題のサービスやプロダクトをUXの視点で解説。マーケティングにも生きる、UXの心得をお届けします。
AI活用が各所で進み、「AIに何を任せ、人は何を担うのか」という議論が活発になっています。AIは「定義された課題を解くこと」が非常に得意です。そうした中、人には「何を課題と捉えるのか」を見極める力が、これまで以上に求められるようになりました。
筆者は、UI/UXデザインに強みをもち、企業変革支援やブランド体験デザイン、ソフトウェア開発などを手掛けるグッドパッチという会社で、社員にUXデザインを教えています。その中で特に難しいと感じるのが「課題を定義する方法」の伝え方です。
筆者がよく話すのは「課題は事実ではなく、解釈である」ということです。自分たちの解釈を“正しい課題”だと思い込んでしまうと、本当に解くべき問題からずれてしまうことがあるからです。
不思議なもので、それを強く実感させられたのはUXデザインに向き合っている瞬間ではなく、是枝裕和監督の映画『怪物』を見たときでした。
本作は、湖のある街の小学校を舞台に、そこで起きた出来事を「母親」「担任教師」「子どもたち」という3つの視点から描いた作品です。同じ出来事であっても、視点が変わるたびに、その意味合いは大きく変わっていきます。
特に印象的だったのは、冒頭で描かれる母親の視点です。彼女は、息子の言動から「学校で何か問題が起きている」と考え、息子を守ろうと行動します。しかし物語が進むにつれ、自分が課題だと捉えていたものが、本当にそうだったのかが揺らいでいきます。
筆者自身、UXデザインや社員の育成といった仕事の場では「自分の視点だけで課題を決めつけないこと」を強く意識しています。それが、こと子どもに対しては、作品で描かれている母親のように、自分の視点で得た情報や解釈だけで判断しているかもしれない、と気付かされました。
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