われわれUXデザイナーは「自分たちには必ずバイアス(偏見)がある」「ユーザーを完全に理解することはできない」という前提で課題に向き合っています。それでも無意識の決めつけは起こります。だからこそ、現場では意識的に「自分の見方を疑うこと」を重視しています。
まず大切にしているのは、「これが課題ではないか」という仮説を多角的に検証することです。仮説を立てた段階で「本当にこの捉え方でいいのか」と何度も自分に問い直します。筋のいい仮説にできるかどうかで、検証の際に得られる示唆の深みが大きく変わるからです。検証の過程でも、自分の仮説に合う情報だけを拾っていないか、都合よく解釈していないかを意識し続けます。
もう一つ重視しているのは「表面に出てくる課題ほど、本質とは違うところにある」と、考えることです。クライアントが語る悩みやユーザーインタビューで出てくる困りごとは、多くの場合、氷山の一角にすぎません。
なぜなら、人は自分の状況や感情を短時間で正確に言語化できるわけではないからです。そのため、UXデザイナーは言葉そのものだけでなく、その奥や裏にある文脈やインサイトを想像することから始めます。
そこで重要になるのが、できる限り多くの情報を集めることです。その上で、1つの事実を複数の視点から整理し、構造的に捉える。さらに、AIによって生まれた時間を使って現場に足を運び、一次情報や、その場でしか得られない感覚的な情報を取りに行く。そうした積み重ねによって初めて、表面的な言葉の奥にある本当の課題が少しずつ見えてくるのだと思います。
AIに何を任せ、何を人間が担うのか。是枝監督の映画を観ていると、その答えの一端が見えてくる気がします。『怪物』では「怪物は誰か」を観客に問いかけたまま、明確な結論は提示されていません。派手なクライマックスや善悪を断定するような描き方もしない。同じ出来事が視点によって全く異なる姿を見せる中で、観客は自分の解釈を持ち込み、考え続けることになります。実際、SNSには映画の解釈を発信する人が多くいました。
AIが賢くなるほど、「何を問題と定義するか」という人間の判断の重みは増していきます。そしてビジネスの現場では、自分たちの解釈が本当に正しいのか、ユーザーとの間に認識のズレが生じていないかを、問い直し続ける姿勢がこれまで以上に重要になるのでしょう。
今、あなたが解決しようとしている課題は、本当に解くべき課題でしょうか?
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