その課題、本当に正しい? 是枝作品に学ぶ、AI時代に「課題を定義する力」の鍛え方グッドパッチとUXの話をしようか(3/3 ページ)

» 2026年05月28日 07時30分 公開
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UXデザインに学ぶ、課題定義のコツ

 われわれUXデザイナーは「自分たちには必ずバイアス(偏見)がある」「ユーザーを完全に理解することはできない」という前提で課題に向き合っています。それでも無意識の決めつけは起こります。だからこそ、現場では意識的に「自分の見方を疑うこと」を重視しています。

 まず大切にしているのは、「これが課題ではないか」という仮説を多角的に検証することです。仮説を立てた段階で「本当にこの捉え方でいいのか」と何度も自分に問い直します。筋のいい仮説にできるかどうかで、検証の際に得られる示唆の深みが大きく変わるからです。検証の過程でも、自分の仮説に合う情報だけを拾っていないか、都合よく解釈していないかを意識し続けます。

「これが課題ではないか」という仮説を多角的に検証する必要がある(画像:ゲッティイメージズより)

 もう一つ重視しているのは「表面に出てくる課題ほど、本質とは違うところにある」と、考えることです。クライアントが語る悩みやユーザーインタビューで出てくる困りごとは、多くの場合、氷山の一角にすぎません。

 なぜなら、人は自分の状況や感情を短時間で正確に言語化できるわけではないからです。そのため、UXデザイナーは言葉そのものだけでなく、その奥や裏にある文脈やインサイトを想像することから始めます。

 そこで重要になるのが、できる限り多くの情報を集めることです。その上で、1つの事実を複数の視点から整理し、構造的に捉える。さらに、AIによって生まれた時間を使って現場に足を運び、一次情報や、その場でしか得られない感覚的な情報を取りに行く。そうした積み重ねによって初めて、表面的な言葉の奥にある本当の課題が少しずつ見えてくるのだと思います。

AIが賢くなるにつれ、人による「課題定義」は重要になる

 AIに何を任せ、何を人間が担うのか。是枝監督の映画を観ていると、その答えの一端が見えてくる気がします。『怪物』では「怪物は誰か」を観客に問いかけたまま、明確な結論は提示されていません。派手なクライマックスや善悪を断定するような描き方もしない。同じ出来事が視点によって全く異なる姿を見せる中で、観客は自分の解釈を持ち込み、考え続けることになります。実際、SNSには映画の解釈を発信する人が多くいました。

是枝監督『怪物』ではさまざまな視点で物語が進んでいく(画像:ギャガ公式Webサイトより)

 AIが賢くなるほど、「何を問題と定義するか」という人間の判断の重みは増していきます。そしてビジネスの現場では、自分たちの解釈が本当に正しいのか、ユーザーとの間に認識のズレが生じていないかを、問い直し続ける姿勢がこれまで以上に重要になるのでしょう。

 今、あなたが解決しようとしている課題は、本当に解くべき課題でしょうか?

著者紹介:秋野比彩美

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株式会社グッドパッチ UXデザイナー。ヤフーでUIデザイナーとしてキャリアをスタートし、トップページの事業責任者を経験した後、大手通信企業のグループ会社でUXデザイナー兼組織マネージャーとして、クオリティー管理、UXデザイナーの採用と育成に取り組む。グッドパッチにUXデザイナーとして入社し、ユーザーリサーチ領域をリード。UXデザイナーの育成やビジネスにおけるUXデザインの啓蒙にも携わっている。趣味は飼っているうさぎを愛でながら、ビールを飲むこと。


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