では、高齢者にも使いやすいような設計の変更を、どのように進めていくべきか。設計を改善する責任を、個別企業の自助努力に委ねるのか、それとも社会全体で支える枠組みを作るのか。坂巻氏は、参考として「海外では後者を選ぶ動きが進んでいる」と紹介した。
例えば欧州では、欧州アクセシビリティ法(EAA)が施行されている。これにより、デジタルサービスも物理的サービスも、原則として誰もが使えるよう設計することが法的に求められているのだ。EUが掲げる長期戦略「Digital Decade 2030」では、2030年までに成人世代を対象に、デジタルスキルの習得を進める目標も掲げている。
具体的な施策も多種多様だ。ドイツでは「Digitaler Engel」(デジタル・エンゲル)という取り組みで、若い世代が高齢者にスマートフォンの操作を教えるツアーを全国で実施している。英国では、高齢者自身がデジタルの先生になる「Digital Champion Programme」を開催中だ。
一方、中国、台湾、韓国といったアジア圏では、企業側に対応を求めるアプローチが進んでいる。中国は2021年に「インターネットアプリケーションの高齢者向けおよびアクセシビリティ向上に関する特別行動計画」を発表。製品やサービス側に、高齢者でも使いやすい設計を求める方向に舵を切った。
台湾も2024年に「AgePass」というポータルを立ち上げ、国主導でサービスを提供する方針に転換している。韓国では2026年、企業規模に応じた対応期限を罰則付きで定めた「デジタルインクルージョン法」が施行された。
では、日本の現在地はどうか。総務省「みんなの公共サイト運用ガイドライン」や金融庁「高齢社会における金融サービスのあり方」など、対応を促す動きはある。2024年に改正された障害者差別解消法で、ウェブアクセシビリティに関する法整備が一歩進んだが、まだ罰則はない。そのため、海外のような大きな動きにはつながっていないのが現状だ。
一方で、企業では先行する動きが見られている。例えばNTTドコモでは「らくらくスマートフォン」を通じて、初めてスマートフォンを使う人でも安心して利用できる設計を追求してきた。
スーパーやコンビニエンスストアでは、高齢の従業員でも操作しやすい視認性や操作性に優れたPOSレジシステムの導入が進んでいる。「日本社会全体を支えるような制度化は、まだ少し先になるかもしれないが、こうした議論は今後増えていくのではないか」(坂巻氏)
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