こうした発想を15年前から実践してきたのが、データセンター大手のさくらインターネットである。同社はデジタル貿易赤字や経済安全保障への問題意識から、国産デジタルインフラの構築に注力してきた。同社の田中邦裕氏(社長)は「海外のサービスを『自分たちで作れないから使わざるを得ない』のか『作れるけれど便利だから使うのか』では全く異なる」と語り、GPUと電力を確保して付加価値を国内で生み出す路線を強調する。
その象徴が、同社の「石狩データセンター」だ。都市部の地価上昇と電力確保難を受け、データセンターの設置場所を、従来の「事業地の近く」から「電力の近く」に転換し、2011年に開所した。
同データセンターは、2023年6月から水力発電を中心とした再生可能エネルギー100%で稼働しており、CO2の年間排出量はゼロ。寒冷な外気を利用した冷房方式で、一般的な都市型データセンターと比べて消費電力を約40%削減した。さらに、データセンターの排熱を施設の暖房に充てることで、マイナス15℃にもなる地域でも暖房費をほぼゼロに抑えているという。
田中氏は「ワット・ビット連携はもう構想ではなく実現段階」と強調する。背景には北海道の電力事情がある。国は北海道で再生可能エネルギーの整備を進めているが、2030年の発電ピーク時には4ギガワット(GW)もの余剰が生じる見込みだ。道内の消費能力や送電能力を踏まえると、同時期の消費量は1.5ギガワット(GW)以下にとどまり、残りは発電を止めざるを得ない。かといって消費を後押しするために送電線を新設するには、5〜10年単位の期間と数千億〜数兆円規模のコストがかかる。
一方、データセンター向けの光ファイバーを敷設する費用は数百億円で済み、期間も2〜3年に収まるという。電力源の近くにデータセンターを集積させ、利用エリアと通信ケーブルで結ぶモデルが正解だと田中氏は結論付ける。同氏によると「送電速度は10年経っても変わらないが、通信速度はこの15年で100〜1000倍程度高速化された」といい、データセンターの需要地から離れていても問題ないという。
データセンターが地域の「迷惑施設」と見なされる事例が日米で起きていることも議論された。田中氏は、データセンター協会が「地域との共生ガイドライン」を策定したことに触れ、税収以上のメリットを地域に提供する重要性を説く。
「東日本大震災の時に当社データセンターに社員の家族を3日間ほど受け入れたことがある。水も電気も通信もあり、データセンターは防災拠点になり得る」と田中氏は述べ、排熱供給と合わせて地域に価値を還元する姿を描いた。
AIインフラを取り巻く産業構造の変化も話題に上った。田中氏は「以前、データセンター事業者はゼネコンにコストダウンを求めていたが、今は何とか建設してもらえないかとお願いする立場だ」と明かす。IT企業が成長を主導し、サプライヤーが供給する従来のピラミッド構造は逆転した。建設や電力といった供給力が成長の制約になっている。
このようにデータセンターを巡って課題が山積する中でも、一つ一つ解決しながらデジタルインフラを整備する必要があるという点で、岡本氏と田中氏の意見は一致する。
岡本氏は、労働力不足を抱える日本こそAIへのニーズが高いと指摘して「AIも電力も、基盤中の基盤になっており、分けて考えると機能しない。AIとエネルギーはセットで考える必要がある」と述べた。
田中氏は「デジタルインフラは電気や水道のように社会にとって、絶対に必要なものになっていく。この成長分野に皆でコミットしながら、日本らしさをいかに発揮できるかを一緒に考えたい」とコメントし、パネルセッションを締めくくった。
AI活用の波は、まだとどまる気配がない。業務の効率化から日本社会の成長まで支えるデジタルインフラ、その土台を成すデータセンターをいかに整備するかが問われている。
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