しかし、そもそもフジクラが出していた「保守的」な姿勢とは、需要への弱気ではなかった。むしろ需要は強い。ボトルネックは需要ではなく供給にあった。
光ファイバーの母材を量産するには大量の高純度水素が要る。フジクラは自社の水素発生装置をフル稼働させてもなお足りず、一部を外部購入していたが、水素メーカー側の供給制約で調達が難しくなるリスクを抱えていた。
また、千葉の新工場の稼働は2029年、米国工場は2030年からで、足元の増産余地も乏しい。需要はあるのに、水素という燃料と、工場という器が間に合わなかった。そのため、会社は開示時点で確実に業績に反映できる分までを見込んだわけだ。
これは経営判断として、むしろ誠実である。受注として確定していない案件を業績予想に織り込まないのは、日本の財務諸表作成における保守主義の基本だ。
実際、5月時点で水素調達リスクの評価は市場でも割れており、影響は軽微とみる向きもなかったわけではない。つまり論争の的はフジクラの事業が伸びるかではなく、生産のボトルネックをどう解釈するかにあった。
では、なぜ株価は半分になったのか。日本の業績予想は、たった1つの数字に、両立しえない2つの役割を負わせている。
1つは、経営陣が達成責任を負う業績コミットメントを表明する役割だ。もう1つは、市場が、業績着地を見積もるための最も確からしい金額を表明する役割である。
経営者にとっては、業績予想を低めに置くほど安全で、市場にとっては業績予想が実態に近いほど有用となる。両者は利益相反の関係なのだ。
フジクラは前者を選んだといっても良いかもしれない。水素の調達リスクを厳しく置き、未確定の受注を外した。ところが市場は、それを「会社が見込む最も確からしい業績の着地点」と解釈したのだろう。
そうなると、市場は「需要が鈍り始めたのではないか」と考える。したがって、AIバブルも長くはないと早とちりしたのではないだろうか。
一言でいえば、市場は業績予想の「下限」を「天井」と取り違えたのである。高い成長を織り込んだ株価ほど、この読み違えの振れ幅は大きくなる。株価が半値になったのはそのような力学が働いたからであると筆者は考える。
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