Amazonが長年、購入データを駆使して取り組んできたパーソナライゼーション(個別最適化)は、AIの進化によってさらなる次元へと突入しようとしている。鈴木VPは「これまでも個別のカスタマイズはやってきましたが、技術的な限界もあり、われわれが目指す理想の体験との間には、まだギャップがあった」と語る。
Amazonが見据えているのは、若年層を中心とした「買い物体験のモバイルへの完全シフト」と「認知ルートの変化」だ。今の若者は、TikTokやInstagramなどのSNSで偶然見つけた商品に興味を持ち、購買意欲を持つケースが増えている。しかし現状、その商品をAmazonで買うためには、一度サイトに来てからあらためてキーワードを入力して検索し直さなければならないという状況が存在する。
「お客さまがAmazonの外のトラフィック(SNSやGoogleなど)にいる段階で、どういう目的で、どこから来るのかという『シグナル』を、AIを使って事前に拾えれば、お客さまがAmazonのサイトに入った瞬間に、あらためて検索することなく、求めているものをその場に提示できるようになります。『来てから探し始める』のではなく『入った瞬間に目の前にある』。AIがもたらすこの『脱・検索の体験』こそが、これからのオンラインショッピングの伸びしろです」(鈴木VP)
さらに、Amazonプライムが目指すCXとして、鈴木VPが「ゴールはまだ先にある」と語るのが、エンターテインメント(動画・音楽)とショッピングのシームレスな融合だ。
利用客の中には「ボクシングの世界戦が見たいから」「プライム・ビデオで過去の懐かしいガンダム作品が見られるから」というエンタメ目的で、プライム会員を維持している層も多い。しかし現状、動画の視聴データとショッピングアプリのレコメンド機能の間には、まだ強力なシナジーが生まれきっていないという。鈴木VPは自らの家庭の身近な例を挙げて課題を提示する。
「私の息子はポケットモンスターが大好きで、プライム・ビデオでしょっちゅうポケモンを見ています。ではAmazonのショッピングアプリを開いたときに、彼向けにポケモングッズがどれだけレコメンドされているかと言えば、現状はそこまで連動していません。ここのデータ連携をお客さまの同意を得た上で適切にできれば、自分が情熱を感じている世界をAmazonの中で丸ごと作り上げられます。野球が好きなら、プライム・ビデオでMLBの試合を見つつ、その流れる中でグッズを買い、Amazon Musicで関連するテーマ曲を聴くといった一気通貫の世界です。そこをつなぐカギになるのがAIだと考えています」
ではこうした施策の先にあるCXで、最終的に最も肝心なことは何なのか。
鈴木VPに問いかけると「いろいろありますが、最低でも期待値に達するサービス、もしくは期待値を超えるサービスを提供することです」という答えが返ってきた。実はこれは、筆者が2025年にAmazonプライムのグローバル責任者であるジャミル・ガーニVPにインタビューした際に彼が語ったCXの本質と、全く同じ考え方だった。日本の現場トップから米国のグローバル責任者まで、Amazonのリーダーたちの間には「共通の哲学」が浸透しているようだ。
「それがある程度できれば『Amazonって信頼できるね』という評価を勝ち取ることができます」と鈴木VPは続ける。
「今のお客さまは、どこで買おうか、どこが一番安いか、どこがポイントがたまるか、といった『比較』のために、客観的に見れば時間と労力を取られすぎています。それを『Amazonで頼めば、価格も安いし、選択肢も信頼できるブランドもあるし、配送もしっかり求める時間に届けてくれる』という安心感を確立できれば、手間を削ぎ落とせます。それこそが、われわれが目指すサブスクリプションの価値です」
顧客のエンタメコンテンツへの情熱とショッピングをつなげること。そして「Amazonを開けば全部ある」という安心感を世の中に定着させること。
行動学に対する深いインサイトと、IT企業が得意とするアジャイル開発、長年培ってきたAIによる需要予測が高度に噛み合ったとき、プライムデーは単なる夏の特売セールの枠を超え、次世代のデジタルマーケティングの在り方を証明する場となるはずだ。
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