最後に、個人的な話を書かせてください。
私は学生時代、国際線のCAに憧れてANA(全日本空輸)に入社しました。当時は、同社が国際線に就航して2年目。「JAL(日本航空)に追いつけ、追い越せ!」がANA社員の合言葉だった頃にさかのぼります。
伊豆山での1週間の新入社員研修で、私は初めて尾翼マークの真意を知りました。ANAの前身は、わずか28人でスタートした「日本ヘリコプター輸送」(日ペリ)。ダ・ヴィンチのヘリコプターを模したロゴには初代社長である美土路昌一氏の思いが込められ、現在のコード「NH」もその歴史を忘れないためのものです。
当時の社内には、こうした創業者たちの熱き“物語”が、まるで“神話”のように語り継がれていました。こういった創業者たちの数々の物語が先輩から後輩へと受け継がれ、骨の髄まで刷り込まれたことで、私たちCAにも「下手なことはできない」という誇りと責任感が育まれたように思います。
その土台となったのが、働く人の人生に意味を与える「人を育てるいい現場」です。経営層と現場の距離感が時代を経ても近かった、ANAという会社の全メンバーが大切にしたのが「私たちの飛行機に乗ってくれる人の顔」でした。それこそが、私の心に今も残るANAという企業です。
現在のANAの経営層はどうでしょうか。システムの完全移行という巨大プロジェクトでのトラブルに、彼ら・彼女らにどれほどの危機感があったのでしょうか。
時代が変わり、どれほどシステムが進化しようとも、企業を支える本質は変わりません。今こそ、あの頃のANAが骨の髄まで教えてくれた「人を大切にする言葉の力」を、現在のリーダーたちに思い出してほしいと、切に願っています。
そして最後に。キャリア志向がみじんもなかった私が今も働き続けているのは、ANAの先輩たちに出会い、働く楽しさを知ったからです。ANAという会社の一員にならなければ、今の私はなかった、といっても過言でありません。
経営者がどんな経営をするかで「一社員」の人生が変わることも、どうかお忘れなく。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) 、『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)など。
新刊『「老害」と呼ばれたくない私たち 大人が尊重されない時代のミドル社員の新しい働き方』(日経BP 日本経済新聞出版)発売中。
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