「業務を効率化したところで、どうせ次の仕事が降ってくるだけじゃないか」――そんな諦めを抱くビジネスパーソンは少なくないだろう。
しかし、東海旅客鉄道(JR東海)で始まったプロジェクトは、全く違うゴールを掲げている。
「早く帰って、夕飯のおかずをもう一品作りたい」――そんな個人の思いと組織の課題解決の両方を叶えるべく立ち上がったのが、非IT人材である総務担当者たちのコミュニティ「Admin Connect」(アドミンコネクト)だ。
同社では各部署に1〜2人ずつ総務担当者を配置しており、業務が部署ごとに分かれていた。そのため、共通業務であるはずなのに、部署によってツールや手順が異なるという非効率が生じていた。Admin Connectでは生成AIも活用しながら、分断されていた総務業務の標準化を進めている。
「効率化した時間は、会社のためではなく自分の人生のために使う」――。生成AIを活用することによって、大企業の業務の在り方を変えようと奮闘した総務社員の挑戦を追った。
本事例は、Women AI Initiative Japan(東京都渋谷区)が主催した、AIに挑戦し自分の選択肢を広げた女性をロールモデルとして表彰する「WOMAN AI AWARD 2026」にて「一般投票賞」を受賞した。
Admin Connectを率いるのは、情報システム部 デジタル変革推進室の葛谷志帆さん。葛谷さんは入社以来、さまざまな部署で総務関連の業務を担ってきたが、その中で、ある違和感を抱き続けていた。
「同じ業務でも部署ごとに手法やツールが異なっており、異動するたびに新しい方法を覚え直さなくてはならない状態でした」
総務の仕事は会社を支える重要な役割だが、成果が見えにくく、業務改善の声を上げにくい。子育てなど時間的な制約を抱えながら働く社員も多い中、細かな業務の積み重ねが現場の負担になっていた。
社内のDX人材を育てる研修に参加したことをきっかけに「自分にもできることがあるのではないか」と一念発起した葛谷さんは、社内公募制度に応募し、デジタル変革推進室へ異動。以前から課題視していた総務業務の効率化に向けてAdmin Connectを立ち上げた。
Admin Connectは名古屋本社の全部門から集められた24人の総務担当者を対象に、2025年9月に始動した。しかし、文系出身の非IT人材が大半を占めていたこともあり、まず直面した課題は、デジタルやAIへの苦手意識だった。
そこで葛谷さんは、AIを活用するところから入るのではなく「とにかく今、何に困っているか」「どの業務が面倒で、煩わしいと思っているか」を出し合うことから始めた。
少人数のグループワークを取り入れ、発言しやすい場づくりを徹底。また、初期に「宿題」を出して参加者の拒否反応を招いてしまった失敗から、月1回の集まりだけで取り組みが完結するよう工夫した。
そうした対話の中から、ある部署で構築されていた「Microsoft Formsを使った名刺発注の効率化」ノウハウが、コミュニティ内で共有され、他部署へも一気に横展開されるなど、成果が生まれ始めた。
「良い方法を知っている人が社内にいたのに、縦割りの組織風土が強く、共有できていませんでした」
こうして、参加者同士が悩みやノウハウを共有できる土壌が整ったことで、生成AIが、課題を整理し改善策を考えるための有効な手法として受け入れられていった。
葛谷さんは生成AIを「壁打ち相手」と表現する。最初から使い方を学ぶのではなく、言語化できない日々の業務でのモヤモヤを整理する。生成AIは、業務フローの可視化や改善案の整理を手伝う「伴走役」として活用している。
現在では、休職者の手続きや各種リマインド業務、転出・転入者対応など、身近で負担の大きい業務をテーマに4チームに分かれて標準化を推進。Microsoft 365の各種アプリを組み合わせた仕組みづくりにも挑戦している。
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