新時代セールスの教科書

約1000枠の広告を“たった4人”で管理 受注件数2倍、ビックカメラの広告事業「営業しなくても売れる」DX(1/4 ページ)

» 2026年07月16日 06時00分 公開

 日本企業の営業組織は、いわゆる「PM(プロジェクトマネジメント)型」が多い。一人の営業パーソンが顧客と要件を丁寧にすり合わせ、技術部門や進行管理を巻き込みながら、受注から納品までを一気通貫で担うスタイルだ。メーカー、物流、IT、BPO、広告などの領域で多く採用されている。

 現在流通する営業ツールの多くは、訪問数や架電数といった「行動量」を管理する海外発の発想で作られているが、日本のPM型営業の実態にはこれがフィットしない。本当に必要なのは行動数の管理ではなく、顧客目線で要件定義を丁寧に実施し、進行を滞らせないことである。

 ビックカメラの広告営業チームも、典型的なPM型営業の課題を抱えていた。

 同社の広告営業チームでは、店舗の看板、街頭ビジョン、店内装飾など約1000の広告枠を、わずか4人のチームで管理・営業している。案件の進行、それにかかわる確認業務が多岐にわたり、本来時間を割くべき営業活動の時間を確保できていなかったという。

 また、広告の空き状況などは各担当者がExcelで管理しており、顧客から問い合わせがあっても、回答までに時間を要し、商談機会を逃してしまうこともあった。

ビックカメラの屋外広告(提供:ビックカメラ)

 そんな状況を解決するため、同社は営業DXに取り組んでいる。デジタルセールスルーム「openpage」を活用し、広告出稿企業や代理店向けに、広告案件の概要を網羅したWebサイトを制作。合わせて、これまでは担当者ごとにメールや電話で管理していた代理店やパートナー企業との進行管理を、デジタルで完結する仕組みを構築した。

 営業DXによって営業活動の大半がオンラインで完結するようになり、受注件数2倍、3カ月前倒しの予算達成など、大きな成果もあげているという。

 今回は、ビックカメラ 広告営業チームの営業DXを進めた営業企画部の竹下芳晴氏に話を聞いた。聞き手はopenpage代表の藤島誓也。

約「1000枠」の広告を、たった4人のチームで扱う

藤島: まず、広告事業の全体像を教えていただけますか。

竹下: 店舗の内外にある広告媒体を扱っています。屋外の看板、街頭ビジョン、店内のエスカレーターラッピングや扉、天井、壁面など、トータルで1000枠ほど。全国40〜50店舗分を全て、本部で一元的に管理し、メーカーへの営業もしています。

藤島: その規模感を、4人のチームで回しているんですよね。管理顧客数はどれくらいになるのですか?

竹下: 主な広告主は約300社ですが、代理店や施工管理パートナーまで含めると1000社規模になります。

時間に追われ「リードタイム」が長くなる 商談機会の損失も

藤島: 営業DXを進める以前は、案件の管理をどのようにしていたのですか?

竹下: 基本はExcelです。担当者ごとにExcelがあって、それを統合できていませんでした。口頭で照らし合わせたり、チャットツールでやりとりしたり。媒体資料も多くて、誰にいつ何を送ったかが分からない状態でした。

藤島: メーカーから問い合わせが来たときの初動はどうしていたんですか。

竹下: 「この枠空いてますか?」と聞かれても即答できないんです。調べ始めてから返答までに1週間くらいかかることもありました。

 当時は1日10件ほど問い合わせが来ていましたが、即答できずにたまっていく……。人数も限られているので、商談につなげられる案件は、1日1件あればいい方でした。問い合わせ自体は来ているのに、こちらの体制でさばけていなかったんです

藤島: これは日本のPM型営業に共通する構造的な課題ですよね。営業が怠けているわけではなく、要件整理と社内調整が必要だから持ち帰っている。ビックカメラさんの場合も、まさにそこで時間がかかっていたと。

竹下: そうですね。資料の問題も大きくて、媒体資料はそもそも一つのPDFにまとめきれる量ではないんです。屋外も店内装飾も媒体数が膨大で、写真や寸法、周辺環境などを網羅すると到底1ファイルには収まらない。かといってメールで分けて送るにも、数十MBになってしまい送れないことも。

 こういった背景から、PDFやメールとは違う形で、デジタル上で製品情報を網羅的に伝える手段はないかと模索していました。いろいろと調べていくうちに、DSR(デジタルセールスルーム)というカテゴリーがあることを知り「これは、まさに自分が探していたものだ」と思いましたね。

藤島: 日本で営業DXというとSFA導入の話が目立ちますが、SFAって社内向けのデータベースなんですよね。営業データを社内で共有するための仕組みであって、顧客接点そのものはデジタル化されていない。

 特に大きな問題は、営業活動のログが従来の営業ツールにほとんど残らないことなんですよね。何の資料をいつ送ったのか、その過程で顧客とどんなやりとりをしたのか、送った後に顧客がどう動いたのか――。SFAやCRMには「商談したかどうか」という記録しか残らず、要件すり合わせの中身も顧客の反応も見えないという点には、問題意識を持っています。

openpage代表取締役の藤島誓也氏(編集部撮影)

藤島: これまでは競合環境の影響も大きかったとか。

竹下: 代理店経由の案件では、競合の媒体にも同時に声がかかっているケースが多くあります。私たちがまごついていると、そちらに取られてしまう。スピード感がないと負けてしまうこともあります。

 空き枠がその場で分かれば即答できますが、(担当者ごとに管理していたため)「持ち帰って確認します」という対応になり、タイムラグが発生していました

藤島: 商談リードタイムは本当に重要なんですよね。早く決まるということは、それだけ営業サイクルを多く回せるということ。サイクルが回れば、その分だけ受注件数を増やせる。つまり売り上げの増加に直結するんです。

竹下: まさにそうですね。現在はリードタイムが短くなった分、新しい商談に入る回数が増えました。

藤島: 日本の営業はまだまだ無駄が多くて、これまでopenpageが支援してDSRに取り組んできた企業の成果を見ると、商談リードタイムは半減近くまで削れることが分かっています。これは見方を変えれば、営業生産性が倍になるということなんです。

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