では、なぜ口座の獲得にそこまで払うのか。一つの理由は金利が戻ってきたからだ。日本銀行は2024年3月にマイナス金利を解除し、2026年6月16日には政策金利を1.0%程度まで引き上げた。
3メガバンクも普通預金金利を0.3%から0.4%に引き上げると発表している(8月3日適用)。低コストの普通預金を集めることで利ざやを確保できる「金利ある世界」では、給与が入り、カード利用代金が引き落とされる口座そのものが収益源になる。
三井住友フィナンシャルグループは一足早く動いていた。2026年3月、金融サービス「Olive」で普通預金残高100万円ごとにクレカ積立の還元率を0.1%上乗せする特典を発表し、5月の買付分から始めている。Olive経由の預金残高は6.1兆円(2025年9月末・SMFG開示)。
三井住友カードの伊藤亮佑執行役員は、3月の発表会で「やはり預金がビジネス的に重要になってきている」と説明している。還元競争の主戦場は、決済から口座へ移りつつある。
この競争で、ドコモは後発だ。「ドコモの銀行」の看板は8月に生まれる予定で、認知はこれからになる。持参金はある。会見資料によると、ドコモSMTBネット銀行の口座数は約915万。ただしネット銀行最大手の楽天銀行は1800万口座(2026年3月)で、口座数ではまだ倍近い開きがある。
dポイント会員は約1億900万人いて、ここから銀行に客を送り込める。口座の獲得競争に後から入るなら、先行より高い率で振り向かせるのが定石だ。4.5%は、その入場料と考えると腑(ふ)に落ちる。
最初の問いに戻ろう。1%の壁を超えた3.5%分の上乗せは、決済の手数料だけでは賄いにくい持ち出しになる。誰が払うのか。特典の提供元はドコモFG――つまり当面はグループがかぶる。
費用の負担割合や回収の計画は開示されていない。ただ、廣井孝史社長が会見で「約6000億円を1.2兆円まで倍増させていきたい」と金融収益の目標(2025年度実績5965億円)を掲げたことを踏まえれば、高還元はこの成長投資の一部であり、その回収源は増えた預金が生む利ざやになる、と読むのが自然だ。
回り回って、特典の原資を生み出すのは、口座を移した利用者の預金――そうした循環を狙った設計だろう。カードの還元競争は、率の高さを競う段階から、条件の中身で口座を奪い合う段階に入った。勝負どころは13カ月目。無条件の上乗せが終わったあとも、口座がドコモに残っているかどうかだ。
金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
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