売り方を変えた藤田社長が次に取り組んだのは「デザイン力」の強化だった。
「『自社に足りないものは何か』を見直したところ、思い当たったのが“デザイン”でした」
そこで、藤田社長はデザイン会社に打診。他社のフッ素コーティングフライパンで人気を集めていた“着脱式の取っ手”を鉄のフライパンでも実現できないかと相談し、試行錯誤の末に誕生したのが、お皿としても使えるフライパン「FRYING PAN JIU」(フライパンジュウ)だった。
スライド着脱式取っ手の開発や強度試験には1年半という歳月が費やされ、開発期間は全体で約2年に及んだ。
「開発で一番大変だったのは取っ手です。鉄板なので重さがあり、試作の段階では折れることもありました。スムーズかつ簡単に着脱できるよう追求する中で、サンプルも相当な数を作りました」
プレスリリースを通して発信すると、フライパンジュウは話題になり、初回ロットはすぐに完売した。「Red Dot Award 2021」「iF design award 2021」なども受賞し、同社の知名度は飛躍的に高まった。
2020年から世界最大級の消費財見本市であるドイツの「アンビエンテ」に毎年出展し、海外展開を加速させている。
欧州ではフッ素コーティングの規制強化が予定されており、安全で長く使える鉄製フライパンへの関心が世界的に高まっている。さらに、日本の包丁メーカーに注文が殺到し供給不足となる中、海外バイヤーが次の商材として同社の鉄フライパンに着目する動きもあるという。
現在、同社製品は世界22カ国で販売しており、自社ブランドにおける海外売上比率は15%ほどだという。今後は、20〜30%へと伸ばすことを見据えて展開を続けている。
ブランドを育てるには、製品だけでなく、それを生み出す工場の姿も重要だった。
2015年に工場を一般公開する「オープンファクトリー」の存在を知った藤田社長は、すでに実践している新潟県の工場に赴いた。そこで衝撃を受け、創業70周年の節目となる2021年に同社の工場を全面改装。工場見学と直営ショップを併設した「フライパンビレッジ」を開設した。
工場の2階部分に設けた見学通路から工場全体を見渡せるほか、カメラを通して製造工程を見られる。
「当初、社員からは反発があると思っていた」と藤田社長は話すが、工場見学や併設のショップを訪れる顧客の存在は、職人たちに「自分たちが作った製品が目の前で買われていく」という実感を与え、プライドと品質意識の向上につながっているという。同時に、製造現場を直接目にした顧客側にも「このフライパンをずっと大切に使おう」という愛着を醸成している。
工場をスタイリッシュに刷新し、SNSでの発信も強化したことで、採用面でも変化が起きた。かつて泥臭かった町工場は、今や平均年齢34.7歳の若い組織へと生まれ変わっている。
「勤務時間は午前8〜午後5時で、残業はほぼありません。土日祝休みで長期休暇もあるため、サービス業や福祉介護など、他業界から『家族との時間を大切にしたい』と転職してくる人が増えました。新卒から『逆指名』で応募が来ることもあります」
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