人手不足が深刻化する中、企業の人材獲得競争が厳しさを増している。大企業に比べて知名度や採用リソースに制約のある中小企業は、採用シーンで劣勢に立たされることもある。
自社に必要な人材をいかに獲得するか――。中小企業の担当者たちは日々、試行錯誤している。2025年に開催された大阪・関西万博で「大屋根リング」の部品製造を手掛けた抱月工業(大阪府門真市)は、採用過程の会社説明会や新卒面接を廃止した。なぜ、そのような決断を下したのか。
人材採用の課題を乗り越えた大阪府に拠点を置く2社――中小製造業の抱月工業と中北製作所(大阪府大東市)が、採用現場のリアルと工夫点を明かした。
本記事は人材サービスのビズリーチ主催イベント「BizReach Conference」(7月1〜2日開催)の講演「中小製造業の採用成功事例に学ぶ。勝てる採用体制と文化づくりのポイント」を基に構成したもの。
抱月工業は、金属加工を専門とする従業員数約120人のモノづくり企業だ。鉄道車両部品や大物フレームを手掛けるほか、大阪・関西万博のシンボルとなった大屋根リングにおいて木材を固定する金属部品を製造した。
同社で採用戦略を担うのは、約2年半前に入社した弓指利武氏(最高人事責任者)だ。売り上げを伸ばすためには人と組織を磨く必要があり、そのために人材を採用する――このような考えの下、抱月工業の採用に取り組んできた。
着任直後に取り組んだのは「採用施策を増やすこと」ではなく、意外にも「会社の文化を言語化すること」だった。その出発点になったのが、企業活動のよりどころとなる行動指針や価値観をまとめた「クレド」の策定だ。
クレドの策定から着手した背景には「採用するためにはまっとうな人事評価の制度がないといけない」(弓指氏)という考えがあった。学生からも評価制度について質問される機会が多く、評価項目を整理しようとした際に「そもそも会社が大切にしてきた文化・価値観は何か」を明確にする必要があると気付いたという。
そこで、ベテラン社員へのヒアリングを重ね、会社に根付いている価値観を言語化した。弓指氏は「私がクレドを作ったというより、社員の皆さんの声をまとめて文字にした」と振り返る。
完成したクレドは印刷してカードにし、各部署で朝礼の際に読み合わせている。朝礼でスケジュールを共有するだけでなく「今日はこのクレドを意識して仕事をする」と一人一人が宣言する運用を始めた。
その後は「ビジョン」の策定にも取り組んだ。社員の参加を促し、会社としてどこを目指すのかを議論する場を設けた。こうした文化づくりの延長線上に採用を位置付けているという。
弓指氏は、採用手法にも新たな試みを取り入れている。
昨今はAI技術が発達し、学生が採用面接で自己アピールに使う「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)の完成度が高まった。しかし弓指氏は、採用の基礎になるのは「予習できないこと」にあると考えた。
そこで同社は、会社説明会を廃止した。代わりに、バーを貸し切った交流会を実施。会社の考え方に共感した人だけが採用選考へ進む形式に変えた。
さらに、新卒採用では面接を行わず、工場を自由に見学できる“フィールドワーク”を取り入れている。学生には「冒険してください」と伝え、社員の話を自由に聞いてもらう。
「会社の良い面」だけを見せようとはしない。工場のにおいや作業環境も含めて、そのまま体験してもらう。「他社とは全く違って面白かった」という学生もいれば「自分には合わない」と感じる学生もいるという。
弓指氏は、それで構わないと考える。採用では人数よりも、その人が持つストーリーに目を向けたいという。
工場見学中の学生が現場社員に質問すると、社員もクレドという共通言語を使って会社の考え方を説明できるようになった。理念と現場の仕事が結び付き、学生に会社の姿を伝えやすくなったという。
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