では、松のやは、どうすれば良かったのか。参考になるのが、競合である吉野家が行っている「こども元気割」だ。小学生以下の子どもを対象に、税込価格から80円を割り引くもので、公式サイトでは「毎日頑張るパパ、ママを応援する夏休み特別企画」と説明している。
こちらも9月3日までのキャンペーンとして「家族みんなで外食を楽しみたいとき」や「たまには食事作りをラクしたいとき」「今日の夕食メニューが思いつかないとき」といったシーンでの利用を提案している。
松のやの「ママ応援企画」と、吉野家の「こども元気割」。商材やコンセプト、開催期間は近いが、なぜここまで受ける印象が異なるのか? そのポイントは、主語を親から子に移していることにある。
子どもは世間一般的に「配慮や保護が必要な存在」として認識されている。そのため、子どもを対象にした割引やサービスは世間からの理解を得やすく、心理的な反発を招きにくい。
加えて、子どもは大人のように一人前の量を食べきれず、提供されるメニューを十分に食べきれないという事情もある。だからこそ、大人と同額ではなく「子ども割引」という形で優遇することに明確な正当性が生まれるのだ。
どちらのキャンペーンも、根底にあるのは「親の負担軽減」だ。当然ながら、小学生以下の子どもが自発的に来店し、自分のお金で会計を済ませることはまずあり得ない。実際に足を運び、お金を払うのは保護者だ。
店舗側の本音としても、顧客層の拡大という狙いがあるのは明白だ。しかし、それを伝える「言葉選び」ひとつで、世間に与える印象はこれほど大きく変わってしまう。
本来、子どもに向けた施策は、親へのアピールにとどまらず「将来の顧客獲得」という重要な側面を持つ。例えばマクドナルドの「ハッピーセット」で育った子どもは、大人になってもその味を覚えており、親になったとき再び自分の子どもに買い与える。こうして世代を超えたファンが作られていく。
つまり、子どもを主語にした施策は、中長期的なブランド投資でもあるのだ。それだけに、今回の松のやの一件は「もっとうまい魅せ方があったはずだ」と悔やまれてならない。
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