この記事は『出店戦略の最強技法 2000店舗を成功に導いたプロのメソッド』(石井昭人、日本能率協会マネジメントセンター)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
物件は、目に見えるものなので、イメージしやすく、そしてワクワクしやすい要素です。
物件を見たり、周囲を歩いたりするだけで「ここで店をやったらどうなるだろう」という想像が一気に膨らみます。つまり、比較しやすいのです。しかし、ここに落とし穴があります。
分かりやすいことと、自分の商売に合っていることは同じではありません。
例えば、同じ駅前でも、短時間利用の店に向く場所と、長く滞在してもらう店には向かない場所があります。
同じ住宅街でも、日常使いされる店には合う場所と、目的がないと来てもらえない店には厳しい場所があります。
人通りが多いこと自体には、意味がありません。大切なのは、その場所を通る人が、自分の店を使う人なのかどうかです。
だから出店では、最初に「良い物件」を探してはいけません。まず決めるべきなのは、自分は何の商売をやるのか、それは誰に使われるのか、どの業種・業態で成立させるのか、その前提です。
「都心の一等地に出店できれば、さすがに大丈夫だろう」――出店を考えたことがある人なら、一度はそう思ったことがあるはずです。
それだけ条件がそろっていれば、失敗するほうが難しそうに見えます。しかし現実には、都心の一等地でも、店は驚くほど簡単につぶれます。
しかもその多くは「立地が悪かった」わけではありません。むしろ、条件としては申し分ない場所です。では、なぜ続かないのか。
理由はシンプルで「立地が良く見えること」と「商売が成り立つこと」は、全く別だからです。
例えば、こういう状況があります。
ターミナル駅の改札を出てすぐの場所に、テークアウト専門の店が入りました。乗降客数は申し分なく、視認性も高い。家賃は高めでしたが「これだけ人が通れば大丈夫」という判断でした。しかし蓋を開けると、そこを通る人の大半は電車に乗ること自体が目的でした。
人の数と、立ち寄る心理は、全く別物だったのです。結果として、一日に必要な客数を確保できず、高い家賃だけが毎月確実に出ていきました。
別のケースでは、大型商業施設の一角にサロン系の店を出したオーナーがいました。施設全体への来客数は多く、認知はすぐに取れました。
しかし周囲は常に人が行き交い、落ち着かない。サロンに来た人が「また来たい」と感じる環境ではありませんでした。立地の良さが、業態の邪魔をしていたのです。
どちらも、立地が悪かったわけではありません。問題は、その場所を通る人の「行動の意味」と、自分の商売に必要な「使われ方」が、最初からかみ合っていなかったことです。
人が多い場所ほど、店は常に比較されます。コストも高い。似たような店、もっと分かりやすい店、すでに選ばれている店が並ぶ中で「なぜこの店なのか」が伝わらなければ、選ばれません。
つまり、立地が良く見えるほど、自然に売れるのではなく、選ばれる理由が、より厳しく問われるということです。
一方で、長く続いている店を見ると、必ず別の要因を持っています。立地条件そのものではなく「誰に、何を、どんな価値として提供しているのか」がはっきりしている。だから、多少条件が厳しくても、選ばれ続けます。
立地は、あくまで条件の一つにすぎません。それだけで店が続くほど、商売は単純ではない。この事実を受け入れない限り、出店判断は何度でも同じところでつまずきます。
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