――先ほど「情報がなければAIも提案できない」というお話がありました。では、地方の施設や事業者は具体的にどう対策をすべきでしょうか。
中庭氏 当社の調査では、地方を訪れる旅行者の67%が口コミを重視し、40%が他の旅行者が投稿した写真や動画によって旅行意欲を高めています。一方で、30%が「地方の信頼できる情報が探しにくい」と感じています。地方に魅力がないわけではなく、判断材料がまだ十分に整っていないのです。
まず手を付けるべきは、情報を一つ一つ整えることです。具体的には「施設情報を最新にすること」「継続的に口コミを集めること」「写真や動画を充実させること」「アクセス方法や地図の情報を多言語で掲載すること」です。さらに周辺のスポットを組み合わせたモデルコースまで提示できれば、AIが提案しやすくなります。ゼロから新しい魅力を作るのではなく、すでにある魅力を旅行者やAIに伝わる形に変えていくことが重要です。
信濃氏 AI機能の本質は「究極のパーソナライゼーション」です。体験を起点にした検索が普及すると「大都市や有名観光地が必ず勝つ」という構造ではなくなってきます。大切なのは、自分たちが提供できるユニークな価値をしっかりとオンライン上で発信することです。
オンライン上で確認できない情報は、AIから旅行者に提案されにくくなります。大都市のまねをする必要はなく、独自の価値を発信すればAI検索にしっかり引っかかるようになります。
――旅行先での「過ごし方」についても教えてください。2026年、どのような体験が注目されているのでしょうか。
中庭氏 当社グループの体験予約サイト「Viator」(ビアター)のデータを見ると「有名な場所をただ観光する」だけでなく「地域の文化に自分から参加する」体験の予約が伸びています。具体的には、相撲体験、金継ぎ・箸作りなどのクラフト体験、寿司やラーメン作りなどのカジュアルな料理体験です。
Z世代やミレニアル世代の82%が「体験を旅行計画の中心に組み込む」と回答しており、体験はもはや旅のオプションではなく、行き先を選ぶ理由そのものになりつつあります。
――AIが一人一人に合った体験を提案する時代において「選ばれる体験」と「選ばれない体験」の差はどこで生まれると思いますか。
中庭氏 AIのパーソナライズが進むと「人気だから全員に同じ体験が表示される」わけではなく「その人の目的や条件にどれだけ合っているか」が重要になります。
例えば「子連れでも一緒に参加できる」「英語で説明を受けられる」「所要時間が2時間以内」といった情報が具体的であればあるほど、AIは「この旅行者にはこの体験が合う」と判断しやすくなります。事業者が準備すべきは次の4点です。
当社の調査では、AI利用者の約4割が「AIが提示する情報の正確性」を懸念しており、9割が最終決定の際にオンラインの口コミを重視しています。また、約半数が「オンライン予約が不便だったために電話や現地などで予約した経験がある」と答えています。AIに見つけられた後、旅行者が安心・信頼して迷わず予約できる環境まで整っているかが重要だと考えています。
信濃氏 体験においても、ポイントは「究極のパーソナライゼーション」です。AI検索やAIを用いた旅のプランニングが普及すると、人気ランキング上位の体験をまねる必要はなくなります。
個別のニーズにしっかり対応できる体験を用意し、それに合致する情報(所要時間や、体験を通じて得られる価値など)をしっかりオンライン上に掲載することが大切です。マーケットが大きそうなものに寄せるのではなく、自社が提供できる体験価値やユニークさを正しく発信していくことが選ばれるための鍵になります。
――「インバウンドの現在地」について意見を聞かせてください。
中庭氏 「『需要を作る時代』から『届け方の時代』へ移ったこと」だと考えています。日本の魅力が旅行者やAIに正しく伝わり、安心して予約できる状態になっているかという部分には、まだ大きな伸びしろがあります。新しい魅力をゼロから作るのではなく、すでにある魅力をAIにも旅行者にも理解しやすい情報として伝え、予約まで確実につなげることが次の成長のポイントです。
信濃氏 「オーセンティック・ジャパン」(本物の日本体験)だと考えています。旅行者は作られた日本ではなく、ありのままの日本を求めています。私たちが当たり前だと思っている日常の風景や体験であっても、インバウンドから見れば素晴らしい価値になります。自らの価値を改めて見つめ直し、発信していくことが重要です。
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