高松、白馬への旅行者急増、なぜ? インバウンドの“旅先選び”の背景にAI、“選ばれる地方”の条件(1/2 ページ)

» 2026年08月24日 07時00分 公開
[サトウナナミITmedia]

 東京や京都といった定番ルートを離れ、高松や白馬(長野県)などの地方都市を旅する外国人旅行者が増加している。この変化の背景にあるのがAIの普及だ。

 AIはユーザーからの問いかけに対し、パーソナライズした回答を生成するのが特徴だ。これが、知名度の高低に関わらず、地方都市にスポットライトを当てる「好機」をもたらしている。一方で、AIに伝わる形で情報が整っていない事業者にとっては、旅行者の選択肢から消し去られる「危機」にもなり得る。

 AIは訪日客の旅先選びをどう変えているのか。そして、この波に乗り勝ち残る「選ばれる事業者」の条件とは何なのか。

 旅行プラットフォームを展開するBooking.com(ブッキング・ドットコム)の信濃伸明氏とトリップアドバイザーの中庭雅文氏が、データを基にインバウンドに起きている変化を読み解く。

photo01 左からmov 店舗支援事業本部 マーケティング部 部長 吉田泰生氏、トリップアドバイザー エンタープライズ・セールスAPAC シニアアカウントエグゼクティブ 中庭雅文氏、Booking.com 営業本部長 信濃伸明氏(編集部撮影、以下同)

本記事は、インバウンド領域で複数の事業を展開するmov(東京都渋谷区)が主催したカンファレンス「THE INBOUND DAY 2026」(8月7日開催)の講演「2026年、訪日観光における3つのシフト : AIは、旅行者を“地方”と“体験”へ導けるか ― Booking.com × Tripadvisorが語る」を取材したもの。


「検索」から「対話」へ AIで変わる旅行者の旅の選び方

 モデレーターはmovの吉田泰生氏が務めた。

――AIの進化により、旅行者の行動に変化が見えています。まずは旅行者の「検索行動の変化」について教えてください。

中庭氏 大きな変化として、旅行者が自分で検索して情報を探すだけではなく「AIに質問を投げかけて、おすすめを提案してもらえるようになった」ことが挙げられます。トリップアドバイザーのグローバル調査では、57%が旅行情報の収集にAIを活用しており、AIが旅行計画の入り口になりつつあります。

 また、日本を含む世界6カ国の旅行者を対象にした調査では、83%が「AIからの旅行提案には価値がある」と回答しています。旅行者がAIに期待しているのは、単に検索結果を出すことではなく「自分に合ったおすすめを提案してほしい」「現地のリアルタイム情報を教えてほしい」といった、旅行コンシェルジュのような役割です。

 AI経由でトリップアドバイザーを訪れるアクセス数は、2025年12月から2026年5月にかけて55%も伸びています。「人気のある温泉を教えて」から「子連れでもゆっくり過ごせる温泉宿を教えて」といったように、キーワードを入力して「検索」するスタイルから、AIと「対話」しながら自分に合った情報を探すスタイルへと変化しており、個人の目的に合った旅行先などを見つけやすくなっています。

信濃氏 ブッキング・ドットコムの調査でも、日本の旅行者の83%が今後の旅行計画にAIを活用したいと回答しています。面白いのは、利用オケージョンです。97%が「旅行の計画・予約時」にAIを使うと答えた一方、88%が「旅行中もAIを使っている」と回答しました。プランニングから旅行中まで、AIと一緒に旅をしている状況です。

 これによって、検索はより「体験型」になってきます。「東京に行きたい」といった目的地ベースではなく「家族で静かな場所でゆっくりしたい」「夜は日本海の海の幸を食べたい」といった、希望する体験をもとに検索する時代に変わってきていると考えています。

AIに選ばれる宿・施設は何が違う? 「体験価値」伝える4つのポイント

――AIが旅行先を選ぶ時代において、AIに選ばれるために事業者ができることは何でしょうか。

中庭氏 結論としては、特別なAI対策に取り組む前に「旅行者に提供している情報を丁寧に整えること」です。ポイントは以下の4つです。

  • 施設の基本情報の一貫性:AIは複数のソースを参照するため、公式Webサイトや各OTA(オンライン旅行代理店)で情報が一貫していることが重要
  • 具体的な口コミ:「良かった」だけでなく「親切な英語のスタッフに助けてもらった」などの具体的な体験が書かれているほど、AIに強みが伝わりやすくなる
  • 誠実な口コミ返信:定型文ではなく、施設の特長を盛り込む、ネガティブな意見にも改善内容が伝わる返信をするなどが重要
  • 写真と説明文:AIは写真だけでなく、説明文などのテキスト情報も読み取って判断材料にする。最新の写真を掲載し、何が写っているのかを言語化する
photo02 トリップアドバイザー エンタープライズ・セールスAPAC シニアアカウントエグゼクティブ 中庭雅文氏

信濃氏 基本情報に加えて「どのような宿泊体験ができるのか」を具体的にイメージできる情報が非常に重要です。AIは画像の中身まで読み込んで解析します。「富士山を見ながら過ごしたい」という検索に選ばれるには、やはり富士山の画像が必要です。お風呂やベッドといったスペック写真だけでなく、提供したい体験の画像を充実させるのがポイントです。

 また、ブッキング・ドットコムのプラットフォームには「大浴場があるかどうか」といった500近い「隠れフィルター」(AI自動生成フィルター)が存在しています。パーソナライズされたテキスト検索に対応するためにも、オンライン上に体験価値をしっかりと反映させることが大切です。

予約数の成長率、1位は「高松」 インバウンドが今「地方」に足を運ぶワケ

――外国人延べ宿泊者数に占める地方の割合が徐々に高まっています。AIによって旅行者の行き先は変わり、地方にチャンスは訪れるのでしょうか。

中庭氏 トリップアドバイザーが公表しているインバウンドレポートでは、88%が「地方を訪れてみたい」、86%が「ゴールデンルート以外の地域も予定に加えたい」と回答しています。九州、北海道、東北地方の人気が高く、閲覧データでも、広島県、福岡県、石川県などの閲覧が伸びています。

 これは一時的なブームではなく、旅行者の行動そのものが「有名だから行く」から「自分に合った場所を探す」へ変わり始めていることの表れです。AIがゼロから地方の需要を生み出すというより、すでにある地方への関心を、AIが具体的な旅行計画につなげる役割を果たし始めていると考えています。

信濃氏 ブッキング・ドットコムを通じた予約数が多かった上位50都市の中で、2025年に予約数の成長率が高かった都市は、1位が高松、2位が白馬、3位が熊本でした。インバウンドはゴールデンルートから一歩踏み込み、日本の隠れた宝(Hidden Gem)を求めて旅をするようになっています。1位の高松は「瀬戸内国際芸術祭」が大きなきっかけとなり、台湾の旅行者などが多く訪れました。

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