人間は一度に一つのことしか意識できない。この性質を利用し、相手の意識にあらかじめ枠組み(フレーム)を設定するテクニックが「プリフレーム」だ。
やり方はシンプルである。会議の冒頭で次のように伝えるのだ。
「今日はこの3点について、それぞれの対応策を聞かせてほしい。説明した後にランダムに当てるから、メモを取りながら聞いてほしい」
こう告げるだけで、部下の意識は自然と「対応策を考えるスタンス」に切り替わる。冒頭で提示された前提に意識が集中するため、余計な言い訳を挟む余地が狭まるのである。
とはいえ、プリフレームだけでは防ぎきれない言い訳もある。そこで役立つのが「言い訳データベース」だ。部下が言いそうな言い訳、過去に実際に言ってきた言い訳を、あらかじめ集めておくのである。
例えば「納期を前倒ししたい」と伝えるとしよう。部下からは「これだけのボリュームだと、間に合わせることは難しくなります」「今の体制では、他の業務にも支障が出ます」といった言い訳が返ってくることが予想できるとする。その場合、会議の冒頭でこう切り出すのだ。
「今回の件、きっと『間に合わない』『他の業務に支障が出る』と思う人もいるだろう。しかし、実際に関係者と相談したところ、この工程を工夫すれば問題ないことが分かっている。業務に支障はないと、技術部からもお墨付きをもらっている。その上で、どうお客さまに伝えるかを一緒に考えたい」
このように、相手が言いそうな言い訳を先に自分の口から出してしまう。すると、部下は同じ言葉を繰り返しにくくなる。
このプリフレームという技術は、社内の会議に限らず、商品やサービスの説明といった対外的な場面でも使える。
「このサービスについて説明すると、必ず『実際はそんなにうまくいかないのでは』と言われます。そこで、そうおっしゃった方に実際に試していただきました。結果がこちらです」
といった具合にプレゼンする。相手が疑問を口にする前に、その疑問へ先回りして答えてしまうのである。
なお、言い訳データベースをつくる作業は、一度きりで終わらせるものではない。相手がよく使う言い訳に気付いたら、その都度データベースに追加し、次のコミュニケーションに活かしていくことが大切だ。そもそも言い訳に事前に対処しておくことは、問題解決に具体的に取り組んでいることと同義である。
ただ、このプリフレームという技術の使い方には注意が必要だ。「よくこういう言い訳をする人がいるんだよな」と、あからさまに切り出してしまうと、部下は「自分のことを言われている」と身構えてしまう。せっかくの布石が、逆効果になることもあるのだ。
「言い訳することを見越して言っているようで、鼻につく」
「余計に、従いたくない」
相手の言い訳を先回りして口にする行為は、一歩間違えれば「お前がどうせ言うと思ってた」という皮肉に聞こえてしまう。せっかく布石を打ったつもりが、部下との信頼関係を損ねてしまっては本末転倒だ。
そこで応用編として使いたいのが「マイ・フレンド・ジョン」という話法だ。これは「私ではなく、別の人が言っていたんだけどさ」と、誰かの口を借りて伝える方法である。私はよく講演で、この技術を使う。
「以前、ある会社の部長からこんな話を聞いた。目標達成のために新規開拓をやろうと言うと『既存顧客の対応は?』『そもそも目標が高い』と言い訳する人がいるそうだ。その部長いわく、『引き合いが来たときしか動かない営業ほど、そう言いたがる』と」
このように「私の友だちのジョンがね……」という体裁で話すと、直接的になりすぎず、柔らかく伝わる。話し手が「教える側」ではなく「教わった側」として振る舞うため、部下も構えずに聞くことができるのだ。
「マイ・フレンド・ジョン」を使おうとすると、どうしても話は長くなる。なぜなら事例を語ることになるからだ。だからこそ、思いつきで話してはいけない。言い訳データベースを作っておき、事前に布石を打つためのエピソードトークも用意する。
少々面倒かもしれないが、効果は抜群だ。誰かの体験談という形を借りるだけで、同じメッセージでも受け取られ方は変わってくる。
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