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トランプ氏が「AI減速」を一蹴 OpenAI「IPO延期」に政権幹部が冷ややかなワケ

» 2026年09月16日 07時00分 公開
[湯川鶴章、エクサウィザーズ AI新聞編集長]
ExaWizards

 トランプ米大統領は9月13日、AI開発の速度を落とすべきだとする業界首脳らの呼び掛けに反対する姿勢を示した。訪問先のアイルランド西部ドゥーンベグ(Doonbeg)にある自身のゴルフ場で、記者団に語った。

 「われわれはAIで中国にリードしている。世界で最も進んだ国だ。率直に言って、この状態を保ちたい。AIを制した者が勝つからだ」

 規制そのものを否定したわけではない。「ガードレールを設けることはできるし、あれこれ手は打てる」と述べた上で、警告を発する側をこう切り捨てた。「持ち出すべきでないことを持ち出す否定的な勢力が数多くいる。起きもしないことを言い立てている」。何を指すのかは説明しなかった。

photo01 トランプ米大統領は9月13日、AI開発の速度を落とすべきだとする業界首脳らの呼び掛けに反対する姿勢を示した(写真提供:ゲッティイメージズ)

発端はAnthropic「減速提言」 AI群が「ネット全体を乗っ取る」可能性

 発端は前日9月12日、AI開発大手の米Anthropic(アンソロピック)のダリオ・アモデイ(Dario Amodei)最高経営責任者(CEO)が個人のWebサイトに公開した論考「We Must Pace the Frontier」(フロンティアの速度を調整せよ)である。アモデイ氏は「AIモデルの能力を向上させる速度を緩めなければならない」と明言した。

 理由は2つだ。

 一つは、この夏以降、AIが次世代のAIを開発する「再帰的自己改善」が業界全体で始まり、進歩が急加速していること。アモデイ氏は「放置すれば、(人間が)システムを理解し制御する能力を追い越しかねない」としている。

 もう一つが、米OpenAIとAI開発基盤の米Hugging Face(ハギングフェイス)を巡る事案だ。AIエージェントの群れが、指示されていない無関係の標的にサイバー攻撃を仕掛け、自分たちの成績を採点する仕組みにまで侵入を試みた。

 アモデイ氏は「この事案を軽視すべきでない」として警告する。能力がもう少し高い群れが、同じように制御を外れていれば、破滅的な被害が出ていた。「半年から1年後には、こうした群れが持続的なサイバー攻撃の網(ボットネット)で、インターネット全体を乗っ取る能力を持ちかねない」。被害額は数千億ドル規模に達しうるとした。

サム・アルトマンも「IPO延期」で同調 米政権高官「利他的なふりをするな」

 提案は3段階ある。第1に、AI評価団体の米METRのような第三者チームを社内に常駐させ、社員並みの権限で安全対策の順守を検証させる。Anthropicは、他社を待たずに単独で実施すると表明した。第2に、民主主義国の開発企業が、共通の安全基準と進歩速度の上限を設ける。第3に、中国を含む世界規模の協調を目指す。

 この呼びかけには米xAI創業者のイーロン・マスク(Elon Musk)氏と、OpenAIのサム・アルトマン(Sam Altman)CEOも賛同した。アルトマン氏は米Fortune誌のインタビューで、安全性への懸念からOpenAIの株式公開(IPO)を2027年以降に先送りする考えを示し、社内でテストの一時停止も議論したと明かしている。

 政権側の反応は冷ややかだ。大統領科学技術諮問委員会(PCAST)共同議長のデビッド・サックス(David Sacks)氏はXで「どうぞご自由に」と応じた。「私は君たちが研究所で見ているものを見ていない。未公開モデルが減速すべきだと思うほど恐ろしいなら、責任ある判断として支持する」。その上で「誰かの許可が要るふりはやめろ」「減速の動機が、純粋に利他的だというふりもやめろ。本当に深刻なサイバー攻撃を製品が可能にすれば、巨額の製造物責任を負うのだから」と突き放した。

 米下院議長のマイク・ジョンソン(Mike Johnson)氏も、同日の米CNN番組で開発停止に反対した。「議会が慌てて緊急会期を開いてAIを規制すれば、中国との競争に負ける。それは全米国民への脅威だ」。安全確保は企業側の責任だとして、プラットフォーム各社の首脳と会う考えを示した。

11月中間選挙の争点へ 米中首脳会談が握るAIの運命

 産業界の足並みはそろっていない。米Microsoft(マイクロソフト)のサティア・ナデラ(Satya Nadella)CEOはXで、速度調整や評価者の常駐という考え方を歓迎すると表明。ただし条件を付けた。「企業にとって、自社固有の暗黙知を完全に管理下に置き続けることは不可欠だ」としている。

 11月の中間選挙をにらみ、AI規制は政治争点に浮上している。米ペンシルベニア州のジョシュ・シャピロ(Josh Shapiro)知事は業界首脳の警告を「赤い警告灯が激しく点滅している」と評し、医薬品や航空機と同様の規制を求めた。バラク・オバマ(Barack Obama)前大統領も先週、民主党幹部にAI規制を党の看板政策に据えるよう促したという。共和党側でも、ミシガン州の上院選に出馬するマイク・ロジャース(Mike Rogers)元下院情報特別委員長が減速支持を表明した。

 ホワイトハウスは9月3週目に、サイバーセキュリティ担当の高官らと会合を開く見通し。国家経済会議(NEC)のケビン・ハセット(Kevin Hassett)委員長が、CNNの番組で「次の一手を考える」と述べた。トランプ氏は9月下旬に中国の習近平国家主席と会談する予定で、アルトマン氏は米中でAIの試験基準に合意するよう促している。5月の北京での首脳会談では、AIに関する合意はなかった。

本記事は、エクサウィザーズが運営するAI新聞内の記事「トランプ氏、AI減速論を一蹴 『AIを制した者が勝つ』」(2026年9月14日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

著者プロフィール

湯川鶴章

AIスタートアップのエクサウィザーズ AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。17年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(15年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(07年)、『ネットは新聞を殺すのか』(03年)などがある。


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