「(キラキラ絵文字)新着情報」――“生成AI感”が話題の参議院Webサイト 「26万円で落札」に見る外注先選定の盲点古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)

» 2026年09月16日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

筆者プロフィール:古田拓也 株式会社X Capital 1級FP技能士

FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経てX Capital株式会社へ参画。


 参議院は8月28日、公式Webサイトのデザインを17年ぶりに刷新した。新着情報がトップページにテキストリンクで並ぶいわゆる“役所らしいWebサイト”から、シンプルな“今っぽいWebサイト”に変わった。国会議事堂内を360度映像で見られる「バーチャル参観」や「ドローンで見る参議院」などのコンテンツも掲載している。

 このリニューアルに対して、SNSで広がったのは称賛ではなかった。「不ぞろいなアイコンの色や様式」「見出しの前に置かれた絵文字」「ソースコードの冒頭に残された大量のコメント」――Webデザイナーや開発者から「生成AIで作ったのではないか」という指摘が相次いだ。

photo 参議院のWebサイト(出所:参議院Webサイト

 ここ数年で登場した言葉がある。「AIスロップ」だ。生成AIで安易に大量生産された低品質なコンテンツを指す言葉で、辞書出版会社の米Merriam-Websterは「slop」を「低品質であり、通常はAIによって大量生成されるデジタルコンテンツ」と定義し、2025年の「Word of the Year」に選んだ

 この案件の落札額はたったの「26万7710円」とされている。この金額で受注した事業者は、示された条件の中で成果物を納品したにすぎない。制作会社側はAI使用の認否を明らかにしていないが、UIの面からも「AIっぽさ」が感じられる仕様になっている。

 問われるべきは、入札制度に潜む“ある盲点”だろう。この問題は「Webサイトのリニューアル」に限った話ではない。国内大手の総合商社が関わる洋上風力プロジェクトでも、同様のことが起きている。

「(キラキラ絵文字)新着情報」――Webサイトの“生成AI感”、その正体

 9月4日時点で、参議院のWebサイトは一部アップデートされているようだ。Webサイトを保存している「Internet Archive」で公開当時の状況を確認すると、8月末時点ではソースコードの末尾に米Googleの生成AI「Gemini」などでサイト制作した際に付与される引用マーカー([cite:3])が残っていた。

photo ソースコードの269行目に「[cite:3]」と記載がある。(出所:Internet Archiveに保存されていた8月末時点のWebサイト、青マーカーは編集部によるもの)

 制作会社側はAI使用の認否を明らかにしていないが、制作会社側はAI使用の認否を明らかにしていないが、UIの面からも「AIっぽさ」が感じられる仕様になっている。参議院のトップページを見ると、ファイル形式やテイストが不ぞろいのアイコンが同じ画面に並んでいる。

 1種類目のアイコンが「絵文字」だ。Webサイト上部に「(キラキラ絵文字)新着情報」「(ピン絵文字)トピックス」というメニューが並んでいる。

 2種類目が、Googleのアイコンフォント「Material Symbols」だ。画像ファイルではなく「フォント」として扱うため、Webページを正しく読み込めないと「record_voice_over傍聴」のようにそのまま文字として表示される。

 3種類目には「SVG画像」という画像形式のアイコンも混在している。議員情報、議案情報、質問主意書などのメニューには「giin.svg」「gian.svg」「syu.svg」といったファイルが割り当てられている。

photo 「参議院の動き」パートに絵文字が使われている(出所:参議院Webサイト
photo 「参観・傍聴・体験プログラム」のパートの一部にMaterial Symbolsが使われている(出所:参議院Webサイト
photo 「議会情報」のパートにSVG画像が使われている(出所:参議院Webサイト

 絵文字とアイコンフォントとSVG。この3つが混在するのは、それぞれを追加する際に全体を統一するデザインルールが働いていなかったことを意味する。

 AIスロップの特徴は、個別の要素やパーツ一つ一つは「破綻していない」ことにある。ミクロの視点では成立していても、俯瞰(ふかん)してみると統一感がまるでないのだ。

落札金額は約26万円 「公用車のシートカバーと絨毯」より安い

 「調達ポータル」のデータをまとめているWebサイトによると「参議院ホームページのデザインリニューアル業務」の落札金額は26万7710円、落札日は5月29日。入札方式は「一般競争入札・最低価格」である。

 この金額を、参議院の他の調達と並べてみる。

 8月7日に落札された案件を見ると「国会審議テレビ中継設備改修工事」が2億4510万円、「本館自家発電設備改修工事」が7100万円、「自動車用シートカバー及び絨毯マット製造」が97万2000円だった。

 立法府の顔であるWebサイトの、17年ぶりのデザイン刷新。その価格は、公用車のシートカバーと絨毯マットの3割以下だった。

 念のため補足すると、この26万7710円が指すのは「デザインリニューアル業務」である。参議院は別に「参議院各インターネットホームページのコンテンツ作成等業務」などの落札も公告しており、サイト全体の制作費用が26万7710円というわけではない。

最も安い提案が勝つ 一般競争入札の盲点とは

 一般競争入札における「最低価格方式」の仕組みは単純だ。参加資格を満たした事業者が価格を提示し、仕様を満たすもののうち最も安い応札者が自動的に落札する。発注側に裁量はほとんどない。

 この方式が機能するのは、品質を明文化できるものだけだ。例えば事務机、ガソリン、クリーニングなどは、求める寸法や仕様が定義できる。設定されたスペックを満たした上で、安ければ安いほど良いということになる。

 一方でWebサイトのデザインのような「視認性・操作性の向上」という要件は、成果を数値化するのが難しい。この種の分野は、入札制度が苦手とする分野といえるだろう。

 明文化できない要素は評価されず、評価されなければ価格差にもならない。結果として、仕様書の文言を形式的に満たす最も安い提案が勝つ。

 興味深いのは、参議院自身がこの問題を理解している形跡があることだ。同院の令和8年度の調達情報を見ると、一般競争入札の公告が47件並ぶ一方で「企画競争に関する公告」が6件あり、その内訳は職員採用試験の問題作成・採点業務などである。

 企画競争は価格ではなく提案内容で相手を選ぶ方式だ。試験問題は安ければ良いものではないと判断されている。

 企画競争を選択肢として持つ組織が、Webサイトのデザインは価格で選べると判断した。その線引きの位置に、問題の本質がある。

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