以上を踏まえ、ショートスリーパーとロングスリーパーで優劣を付けられるのか。
まず、生まれつき睡眠時間が短くても足りる人と、長い睡眠を必要とする人を比べると、優劣を決めるのは難しい。他の条件が同じなら、短眠者に時間的な利点はあるが、職業上の成功まで優位とはいえない。
次に「無理して短く寝る人」と「必要なだけ寝る人」を比べると、必要なだけ寝る人のほうが有利だ。特に見落としやミスが損失につながる仕事では、活動時間を増やすことより、能力を安定させることを重視したほうがいい。
一般の人が重視すべき戦略は、「自分の必要睡眠量を確保し、実際の仕事の成果で検証する」ことである。睡眠時間が短くても足りる人には「利点」があり得るが、睡眠時間を削れば、その「利点」が得られるわけではない。
ちなみに「仕事ができる最短の睡眠時間」は、睡眠の機会を十分に確保し、朝の休養感や日中の眠気がどう変わるかを見ながら計っていくのが基本だという。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、必要量には個人差があるため、日中の眠気や「寝て休まった感覚」を手がかりに探るとしている。
オバマやサッチャーのようなショートスリーパーの睡眠時間だけをまねして睡眠を削っても、得られるのは、「眠気に気づかないまま低下するパフォーマンス」と「ミスが増えるリスク」だけだ。
仕事のために重視すべきなのは、睡眠時間の短さという「見た目のタフさ」ではなく、「起きている時間の成果を安定させること」なのだ。
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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