DX担当「また同じ質問か……」 デンソー「人が頑張る」をやめた、AIが回す「ナレッジ循環」の仕組み(1/2 ページ)

» 2026年09月30日 08時00分 公開
[濱川太一,ITmedia]

 他部署からDXに関する相談を受けるたびに、担当者が過去の事例を探したり、詳しい人に聞いたりする。すでに解決した案件も、忙しさからナレッジとして整理できず、また似たような相談が寄せられる――。

 自動車部品大手のデンソーは、こうした状況をAIを使って変えようとしている。同社ではデータやナレッジを蓄積しても、現場で十分に活用されないという課題があったという。

 「DXの話題では、とにかくデータとナレッジを集めてAIを入れようという話が中心になりがち。しかし現場では、データがあっても探せない、ナレッジをためても再利用されない。そのような状態では、たとえAIを入れても業務は劇的には変わらない」

 こう話すのは、同社パワトレインDX推進室長の植田大治氏だ。同社が目指したのは、「データ、ナレッジ、AIが業務を通じて人を中心につながる状態」だという。

photo01 デンソー パワトレインシステム事業グループ パワトレインDX推進室長の植田大治氏(右)と同推進室課長の大山洋司氏(筆者撮影)

本記事は米Snowflake主催イベント「Snowflake World Tour Tokyo 2026」におけるセッション「Cortex AI&CoWorkで実現する、問い合わせから始まるナレッジ循環 なぜDX相談は繰り返されるのか?」を基に構成。


「また同じ質問……」 過去の知見で解けた相談が300件、何が原因だった?

 デンソーは1949年、前身のトヨタ自動車工業の電装品工場から分離・独立する形で設立した。グループ従業員は約15万人。事業部門の仕事は現場密着型で、工場、生産技術、設計、品質など、それぞれの業務で膨大な情報を扱っている。

 植田氏自身も約20年間、製品設計や製品開発に携わってきたエンジニアで、現在はDX推進を担う。

 同社ではこれまで「データ資産」と「ナレッジ資産」の蓄積に注力してきた。データ活用は当初1部門から始まり、現在は複数の業務で利用されている。ナレッジについても蓄積を進め、複数事業から相談を受けるまでになった。

 ところが、資産がたまればたまるほど、新しい課題が浮き彫りになった。

 植田氏が挙げたのが、DX相談をめぐる4つの課題だ。

 1つ目は「知見の活用不足」。過去のナレッジを使えば解決できたと考えられる相談が300件以上あった。しかし、必要な情報が存在していても社員自身では探し出せず、結果としてDX推進側に相談が寄せられていた。

 2つ目は「リードタイムの長期化」。担当者のアサインに時間がかかるケースがあったほか、本来担当すべき人ではなく、都度、そのときにやれそうな人に案件を任せてしまうことがあった。

 3つ目は「類似相談が多数あった」こと。似たような案件が繰り返し寄せられるにもかかわらず、毎回その場で対応方法を考えていたこと。

 4つ目は「低ナレッジ化率」。相談件数が増える一方で、ナレッジ化が停滞していた。

 「案件対応しながらナレッジ化してくださいとお願いしても、忙しくてなかなかできず、すぐ次の案件が来てしまう。知識が結局残らず、課題解決が人の善意と頑張りに依存して、なんとか回している状態だった」(植田氏)

 こうした状況を変えるため、同社が意識したのは「人が頑張るDX」から、AIを使った「仕組みで回るDX」への転換だった。

「見つかる・適材適所・回る・育つ」 解決へ導くアプローチ

 転換を図るためのキーワードとして、大山洋司氏(パワトレインDX推進室 課長)が掲げたのは「見つかる」「適材適所」「回る」「育つ」の4つ。

 「見つかる」は、データやナレッジを自然言語で検索し、ユーザー自身が答えにたどり着けるようにすることだ。

 「適材適所」は、相談内容から必要なスキルをAIが分析し、担当者の現在のスキルや育成目標を踏まえて候補者を提示すること。実際に候補者に任せるかどうかは、最終的に人が判断する。「AIは推薦まで。決めるのは人です」(大山氏)

 3つ目の「回る」では、案件の進捗や停滞している箇所を把握し、AIが支援策を提示する。管理者が担当者に何度も進捗を確かめる負担を減らし、情報の把握から判断や支援へと時間を振り向けられるようにする。

 4つ目の「育つ」は、案件が完了すると、対応内容ややり取りをもとにAIがナレッジのひな型を生成する。担当者はゼロから文章を書くのではなく、生成された内容を確認・修正し、承認して公開する。

 「ナレッジを残しましょうとルールで決めても残らない。書く気がないからではなく、書く時間がないから。だから私たちはこれを、やる気の問題ではなく、時間と設計の問題として扱うことにしました」(大山氏)

 AIが作った内容をそのまま公開するのではなく、人が確認して承認したものだけを組織のナレッジとして蓄積するようにした。

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