素材産業の立場から課題を示したのが、非鉄金属大手であるJX金属の安田豊氏(副社長執行役員)だ。安田氏はまず「サーキュラーエコノミー」と「都市鉱山」を区別する。前者は1989年に英国で提唱され、生産段階から回収・再利用を前提とする経済・社会システムを指す。製品を送り出す段階を考慮するため「動脈側」と捉えられる。後者は1988年に日本で提唱された、廃棄物を起点に何を回収するかを考える「静脈側」の発想だ。
「日本の静脈側のサプライチェーンは、どうしても廃棄物からの回収を前提とした発想に縛られている。対象範囲を拡大したサーキュラーエコノミーへ進化する必要がある」と安田氏は述べる。
ベースメタル(銅など用途の広い金属)やレアメタル(希少金属)の需要が急増する一方、供給制約と地政学リスクで安定調達が難しくなった。リサイクル対象の製品は複雑化し、回収できる量や品質、コストも利用側の条件に合わない。消費者を経由した製品では動脈(生産・流通)側と静脈(回収・再資源化)側が分断され、トレーサビリティー(流通経路の追跡)も確保できない。根にあるのはインセンティブの不足だと安田氏は見る。
「収集、前処理、選別、トレーサビリティー、品質管理。そういったところの整備には、やはりお金がかかる」(安田氏)。同氏は行政に対し、再生材の使用を促す制度、使用済み製品の処理費用や回収責任の明確化、設備投資への補助を挙げ、インセンティブが働く社会システムづくりを求めた。
JX金属自身の打ち手が、銅の生産体制の転換だ。銅鉱石とリサイクル原料を組み合わせる「グリーンハイブリッド製錬」への移行を進める。銅鉱石に含まれる鉄や硫黄が発する熱を使うことで、カーボンフットプリント(製品が一生の間に出す二酸化炭素の量)を抑えつつリサイクルを進められる。2040年のリサイクル原料比率50%を目標に掲げる。
ただし、循環が事業として成り立つかは対象物で異なる。貴金属は価格が高く価値も知られているため事業化が進みやすいが、レアアースはかつて非常に安価で、いまも価格の変動が大きい。「事業として取り組むとなったら、価格の安定性が、経済的にその事業を続けられるかどうかの鍵になる」。リサイクル由来の元素・物質の価格の考え方を設定できれば循環経済は前に進む、というのが安田氏の見立てだ。
モデレーターを務めた三菱UFJリサーチ&コンサルティングの清水孝太郎氏(政策研究事業本部 経済・産業ユニット長 主席研究員)は、従来の3Rが資源の採掘・消費量を減らすだけの取り組みだったと整理し、利益も増やして初めて循環経済型のビジネスになると述べた。
事業者ごとに分解すると、連携が要る理由が見える。「誰か1人だけ赤字の企業があっては、バトンタッチができない」と語る。長寿命化がそのまま資産価値になる建物と違い、自動車や家電は製錬所、家庭、廃棄物処理事業者へと移る過程で流れが途切れるからだ。
分断している動脈と静脈をつなげば、トレーサビリティーが確保され価値が継続する。安田氏は「日立製作所が音頭を取って、仕組み作りをしていただければありがたい」と期待する。それに対して中津氏は「例えば1つのマテリアル(素材)を決めて、具体的に誰かと組んで、きちっとリアルに回せば学びが深まっていく」と応じ、公共調達や税制による後押しも求めた。
資源の制約と規制の強化を受け、資源循環は環境部門だけでなく、調達や投資、製品設計に関わる経営課題になった。政策目標も素材産業の生産体制も整い始めたが、採算が取れるかは実際に回収から再利用までを試さなければ分からない。まず対象の素材と連携先を決め、小規模でも循環を一巡させることが課題解決の第一歩になるのかもしれない。
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