興収2500億円超えの映画業界 カンヌに4本の作品を送り出した配給会社社長が語る「コロナ禍の生き残り方」:9月19日からイベント開催制限が緩和(4/4 ページ)
新型コロナウイルスの感染拡大は映画業界にも大きな影響を及ぼしている。配給会社ラビットハウスの増田英明社長は「日本では小さな配給会社でも生き残ることができる」と語る。日本の映画業界は毎年2000億円の興行収入を維持していて、小規模な配給会社がそのうちの10%のシェアを奪い合う一定のマーケットがあるからだ。中小の配給会社がコロナ禍をどのように生き抜くのか。増田社長に戦略を聞いた。
コロナがもたらす変化をどう生き抜くか
VRや映画祭での若手育成など、増田氏が取り組む事業は、映画業界の今後を見据えてのものだ。ただ、新型コロナが業界にもたらす変化は深刻だという。
「今後はおそらく企業が映画にお金を出せなくなり製作本数は減るでしょう。現場では製作費の高騰も予想されます。すでに、これまでは2日間で撮影できていたものが、密にならない、アクリル板が必要といったコロナ対策をすることで、3〜4日かかるようになりました。製作費はスタッフの宿泊費や食費、機材のレンタルなどを考えれば、撮影1日あたり300〜400万円は最低でもかかりますから、倍近くかかってくる可能性があります」
また新型コロナの感染拡大後は、AmazonプライムやNetflixなどの動画配信サービスで映画を見る人が確実に増えた。これらの動画配信サービスの場合、1回視聴するたびの課金であれば何割かが配給会社に入っていた。だが、現在は買い切りによる見放題が主流になっている現実がある。そうなると配給会社にとっては映画館に足を運んでもらうことこそが最大の収入源であることに変わりはない。しかし、新型コロナは映画館離れにも拍車を掛けている。
「これからも映画館に来てお金を払ってくれるかという不安があります。今映画館に来ているのは若い人が多いですが、自宅で映画を見ることに慣れることで、映画離れにつながるのが怖いですね。特にシニアの方に関しては、映画館に足を運ぶことに、ちゅうちょしている人が多い気がします。9月19日以降は映画館も今の50%から100%の収容率に緩和され、満席が可能になりますが、観客がどれだけ戻ってくるかは読めないですね」
映画を取り巻く状況が厳しくなるなかで、今後はますます企画を開発することが必要になってくると増田氏は感じている。小規模な配給会社ができることは、コロナ禍であっても、いい作品を生み出すことに変わりはないからだ。
「映画館で携帯電話の電源を2時間だけ切って、物語に出会う時間は、ある意味とてもぜいたくで、貴重です。今後も廃れることはないと思いたい。物語は自分で想像する余白も与えてくれます。1本の映画を見たあとに気分が変わった体験は誰にでもあるはず。新しい日常がやってきても、あの暗闇で得られる物語や余白は、必ず人間をいやし、成長する糧になっていくと信じています」
著者プロフィール
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。「スポーツ報知大相撲ジャーナル」で相撲記事も担当。Webサイトはhttp://tanakakeitaro.link/。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)
お知らせ
新刊『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)が発売されました!
ITmedia ビジネスオンラインで連載中の「パラリンピックで日本が変わる」。
だが、そのパラリンピックがいつどこで始まったか、知る人は少ない。
そして、パラリンピックの発展に、日本という国が深く関わっていることも、ほとんどの日本人は知らない。
パラリンピック60年の歴史をひもときながら、障害者、医師、官僚、教師、そして皇室の人びとといった、パラリンピックの灯を今日までつなげてきた人日本人たちのドラマを、関係者の貴重な証言から描く。
日本の障害者スポーツ史の決定版。
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