パワハラは減らないどころか増えている――加害者の典型的な言い訳と、決定的な「2つの見落とし」とは:見落としがちな“心のエアポケット”(3/5 ページ)
社会的な認知度が上がっても減らないパワハラ。厚労省の発表によれば、職場でのいじめや嫌がらせは、年々増えてきている。中には被害者が自ら命を絶ってしまうケースもあるが、そんな中、被害を拡大しないために見落としてはいけない“心のエアポケット”とは?
(3)命を絶つくらいなら、辞めればいい
「自ら命を絶つくらいなら、その前に会社を辞めればいいのに」
かつて、テレビの討論番組でこのように発言していたパネリストを見たことがあります。実際、同じように考える人は他にもたくさんいるのだと思います。命さえあれば、またやり直すことだってできるはずです。仕事や上司のために命を絶つなんてばかばかしい。本当に無理だと思ったら辞めればいい。辞めるのではなく命を絶つことを選んだのは自分の意思じゃないか――という考え方です。
上司としては、確かに厳しく接したものの、命を絶たなければならないほど追い込んだつもりはなく、そこまで思い詰めていたのなら、命を絶つ前に相談して欲しかったと思うのかもしれません。
これら3つの言い分も、一つの理屈ではあります。これらの考えに基づいて、同じように厳しく指導した部下が、立派に成長して活躍している事例もあるかもしれません。
しかし、決定的なことを少なくとも2つ見落としています。
追い込まれると、正常な判断はできない
まず、言葉や態度に対する受け取り方は人それぞれだということです。Aさんに通じたことが、Bさんにも同じように通じるとは限りません。
人には個性があり、違いがあります。そこを踏まえずに、誰に対しても通り一遍の接し方を繰り返せば、うまく意思疎通が図れないケースも当然出てくるはずです。他の人がうまく育ったから、自分もそう育てられたから、だから同じように指導すればよいという考え方は、短絡的とさえ言えます。
そして、もっと決定的で不幸な見落としがあります。それは、「人は一線を越えるまで追い込まれると、“心のエアポケット”にはまってしまう」ということです。一度、心のエアポケットにはまると、今まで普通にできていたことができなくなってしまいます。
学校で授業中、怖い先生から指されると極度な緊張状態に陥り、いつもなら簡単に分かりそうな問題にも答えられなくなってしまう。そのような経験をしたことがある人は少なくないはずです。
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