パワハラは減らないどころか増えている――加害者の典型的な言い訳と、決定的な「2つの見落とし」とは:見落としがちな“心のエアポケット”(4/5 ページ)
社会的な認知度が上がっても減らないパワハラ。厚労省の発表によれば、職場でのいじめや嫌がらせは、年々増えてきている。中には被害者が自ら命を絶ってしまうケースもあるが、そんな中、被害を拡大しないために見落としてはいけない“心のエアポケット”とは?
「さっさと会社をやめればいい」は的外れ
上司から日々叱責され、緊張状態にさらされ続けて鬱を発症するような状態になったとき、新しい仕事を覚えるどころか、それまでできていたことさえできなくなり、同じようなミスを何度も繰り返し、そのミスによってさらに叱責される、という悪循環が心のエアポケットへと陥らせます。
また、できないことを責めるのは上司だけではありません。できないことが分かっている自分は、自身を責めてしまいます。そして逃げ場が失われていきます。
冒頭で紹介した記事で亡くなった男性は、突然丸刈りになった姿を見て心配する家族に、「俺が悪い」と伝えていたそうです。上司から責められ、自分でも自分を責め、さらに追い込まれていく中でますます普通にできていたことができなくなって、抜け出せなくなる――。
心のエアポケットに陥ると、最終的に奪われるのは「判断力」です。精神的に追い詰められ、逃げ場がない中で、どうすれば良いのか分からなくなっていく。前に進むことも、後ろにさがることもできない。通常の状態であれば判断できることもできなくなってしまう。「自ら命を絶つくらいなら、その前に会社を辞めればいいのに」――まともな判断力を奪われてしまっている人にとって、この言葉ほど的外れな指摘はありません。
追い込まれてしまうのは根性が足りないだけではないか、と考える人もいるでしょう。では、戦場で拷問のような仕打ちを受けても心が折れない自信がある人はどれくらいいるでしょうか。もし、戦場での拷問が極端な例だというのであれば、どの程度の苦痛までが甘えになるのか、誰が明確に線引きできるのでしょうか。
人には個性があり、違いがあります。叱責から受ける精神的なプレッシャーに対する耐性も人それぞれです。問題は「甘え」かどうかではなく、叱責によるパワハラで心のエアポケットに陥り、普段の能力が発揮できなくなっているにもかかわらず、そのことに気付かず、叱責し続けることにあります。判断力が奪われてしまえば、叱責された側は逃げることさえできなくなります。
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