「駅のホームドア」が普及しているが、安全基準はどうなのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/8 ページ)
京王電鉄京王線で発生した傷害放火事件は記憶に新しいが、犯人の動機などは社会学、心理学の範疇(はんちゅう)で鉄道側としてはなんともしがたい。ただし、鉄道については「防犯」と「防災」の議論が起きた。ホームドアなどの関連する各種施設や機器とその運用、これまでの法令等を見ながら、課題や今後のあり方を考える。
防災――非常時の運用は要検証
京王線傷害放火事件は「非常時の扉扱い」が主題となった。こちらは犯罪とは別立てで考える必要がある。放火だろうと自然発火だろうと、車内で火災が起きた場合は緊急停止して避難する。事件では乗客が通報装置で乗務員に緊急事態を伝えた。しかし聞き取りにくく確認が遅れた。この場合、京王電鉄の規定は「前方の直近の駅に停車」だ。
報道をまとめると、運転士は規定に沿って国領駅で停車した。しかし何らかの事情で停車位置が1メートル後ろにずれた。ここで乗客が非常ドアコックを使った。非常ドアコックが操作されると列車は動かない。しかし運転士は停車位置を修正しようと操作したところ、非常状態でモーターは回らず、上り坂だったためさらに1メートル後退した。
国領駅にはホームドアがある。最新式のホームドアは電車の扉の位置が合ったときだけ開く。つまりズレていると開かない。これは「安全のため」である。ホームドアは乗客がホームから転落しないために作られている。電車に乗れないときには開かない。そこで、電車の扉もホームドアも開かなかった。
乗客が窓から脱出し、ホームドアを乗り越え始めたため、危険だと判断して車両のドアを開けなかった。ホームドアも非常時は手動で開けられるはずが、開かなかった。
窓またぎ、ホームドアまたぎは、老人には厳しいし、妊婦には危険。乳幼児など背の低い人は周囲の助けが必要になる。ただし、テレビ報道を見ていると列車とホームドアが両方とも開いている場面もあった。両方とも閉ざされた時間は短かったかもしれない。
詳しくは事故調査委員会も調査するだろうけれども、「非常ドアコックを操作したにもかかわらず、扉が開いていない」の理由も明らかにしてほしい。
これは機械の作動論理としておかしい。非常ドアコックを操作したら開かなくちゃいけない。誤動作だとしたら問題だし、仕様だとしたら役に立たない。非常ドアコックを操作しても、乗務員が確認しないと作動しないという仕組みだろうか。車内で火災が発生したときに逃げられない。
非常ドアコックは慎重に扱うべき装置だ。車両故障など線路上で停止した場合、非常ドアで脱出しても、鉄橋や高架橋などでは足下が安全だとは限らない。運悪く隣の列車がさしかかり跳ねられる危険もある。だからこそむやみに使うなと警告されている。しかし本当に危険なときに開かないという状態は間違っている。仕様であれば見直すべきだ。
次に、非常ドアコックが操作され、列車が動かないとしながらも、実際には1メートル後退している理由は何か。非常ドアコックは停車中に作動するのであれば、作動中はブレーキがロックされているべきではないか。
運用面はどうか。非常通報装置が聞き取りにくかったという。非常通報した人がパニックだったかもしれないけれど、刃物を持った犯罪者が近づいてくる。放火されて火の手が迫る。そんな状態で「その場でとどまって冷静に会話できるか」。私なら逃げる。非常通報システムの見直しが必要だ。通話器を取り外し、逃げながら伝えられる機器を検討したい。あるいは携帯電話から通報できるほうがいい。
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