「駅のホームドア」が普及しているが、安全基準はどうなのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/8 ページ)
京王電鉄京王線で発生した傷害放火事件は記憶に新しいが、犯人の動機などは社会学、心理学の範疇(はんちゅう)で鉄道側としてはなんともしがたい。ただし、鉄道については「防犯」と「防災」の議論が起きた。ホームドアなどの関連する各種施設や機器とその運用、これまでの法令等を見ながら、課題や今後のあり方を考える。
ホームドア――実験的なまま普及してしまった
そしてホームドアだ。ホームドアにも非常開閉スイッチがある。しかし、多くの乗客にとって存在は知らされていないし、私は趣味的に観察して知っているけれども「鉄道職員以外が触ってはいけない」という認識だ。電車内の通報装置や非常ドアコック、駅の非常ベルほど認知されていなかった。しかし、これは誰も責められない。鉄道職員だって、ホームドアの非常扉スイッチは「関係者以外操作厳禁」だと思っていただろう。
なぜなら、ホームドアは大前提として「電車がいないときにホームから線路へ落ちないために閉じている」。線路側からホームへ向かうような緊急事態は想定していなかった。車両火災については、日本の鉄道車両は難燃化素材を使うよう基準が定められている。地下鉄や長大トンネルを走る車両はもっと厳しい。だから特に考慮しなかったかもしれない。
平和ボケとまではいわないけれど、日本の鉄道設備は「性善説」に頼りすぎた。もし悪人がいたら。もしテロが発生したら……。鉄道以外の分野にもあるかもしれないけれども。
かくして、ホームにいる乗客を守るホームドアは、車内の危険から逃れる乗客を閉じ込めてしまった。今後、運用面に課題を残した。駅や車内のように、誰もが分かりやすい場所に非常装置の場所を示したほうがいい。
ホームドアは、乗客がホームから落下しないように作られ、普及してきた。スマートフォン歩きで線路に落下、酔っ払って線路に落下、目の不自由な人が落下する事故が相次ぎ、国としても対応を急いだ。国土交通省は16年に「利用者10万人以上が利用する駅には原則として2020年までにホームドアを設置せよ」と鉄道会社に通達した。
もちろん諸事情をかえりみて例外はあるとしても。新しい駅を作る場合は、バリアフリー設備と合わせてホームドアも組み込まれる。国や自治体がホームドア設置に補助する制度も作られた。
しかし、普及を急ぐあまり、ホームドアの様式は確定できていない。鉄道会社によって求める性能も違う。
特急と各駅停車で扉の数が違うから対応すべき、ホームが狭いからコンパクトに。空調を重視して天井まで届くガラスの壁のようなタイプもある。ドア本体もよくみられる板状、風通しの良いパイプ式、軽量で扉の数の変化にも対応するロープ型。解放方向も左右か上下か。さまざまな様式のホームドアが各メーカーから開発され、技術、コストの競争が始まった。
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