海外売上比率6割でも国内社員の9割は福井県人 繊維大手・セーレンが地元にこだわる理由:地域経済の底力(3/4 ページ)
ピンチをチャンスに変える。総合繊維メーカー大手のセーレンこそ、この言葉にふさわしい企業だ。過去に何度も危機を乗り越え、今回のコロナ禍も踏みとどまり、既に増収増益に転じている。そんな同社が長きにわたって地元・福井に与えてきた影響とはいかに。
行政も企業も一枚岩に
地域貢献に関して、もう一つ、川田会長が熱心に取り組んだのが行政との連携だ。前福井県知事の西川一誠氏が在任中の03年から19年まで、川田会長は地元財界のリーダーとして、二人三脚で福井の発展に心血を注いだ。川田会長自身も09年から10年半、福井商工会議所の会頭を務めた。
「選挙の時から前知事と一体となり、16年かけて福井の産業をかなり変えていきました。県と商工会議所などが一緒に地元の課題などを共有しながら、活性化してきたわけです。例えば、人工衛星や炭素繊維材料などの開発においても、行政と民間がタッグを組み、新しい産業創出のために皆で尽力しました」
それまではどちらかといえば行政と距離を置いていたセーレンだったが、「ここまで肩入れするのは珍しかった」と、ある幹部社員は話す。ただ、それが功を奏し、このころから地元企業も一枚岩になるようになった。
例えば、18年に開催された「福井しあわせ元気国体」は、地元企業だけで8億円ほどかき集めて成功に導いた。また、明治神宮の本殿遷座に際しても福井県で3億円を集めた実績もある。
「たとえライバル企業であっても一緒にやろうとする機運が生まれました。県も産業育成に力を入れてくれたことも大きいです」
こうした地域内連携が、福井を「幸福度」や「学力」といった面で全国トップに押し上げたといっても過言ではない。また、年月をかけて培われた協力体制はコロナ禍でも生きた。福井県民の安心安全を守ろうと企業が素早くアクションを起こしたのだ。
例えば、ドラッグストアチェーン「ゲンキー」を運営するGenky DrugStoresは、21年1月に「福井を元気に! プロジェクト」を立ち上げて、セーレンのほか、前田工繊、日華化学といった地元企業と「布マスク」や「手指用消毒液」を共同開発した。また、福井大学の研究をベースにした「鼻うがい薬」も販売した。
他にも、鯖江にあるECサービスのウォンツと、眼鏡メーカーのボストンクラブがフェイスシールドを共同で開発するなど、いろいろな動きが出ている。
こうした活気が地元経済にも好影響を与えている。財務省北陸財務局の福井財務事務所が21年12月に発表した10〜12月期の県内法人企業景気予測調査によると、全産業の景況判断指数(BSI)はプラス12.1となり、04年の調査開始以来、最高値を記録した。
実際にはコロナ禍前からも経済は堅調で、例えば、有効求人倍率は22カ月連続で全国1位をキープしている。
「福井は中小企業のかたまりですが、皆さんとにかく一生懸命働きます。コロナで急きょ対応を迫られる中でも必死でした。また、福井はコロナ感染者が少ない都道府県の一つ。産業だけでなく、感染対策も含めて、優秀な県ではないでしょうか。突出しているところはないけれど、全体的にレベルは高いと感じています」
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