「このままではつぶれる……!」 繊維業界の常識を壊して倒産危機を救ったセーレン・川田会長の革命:セーレン・川田会長の革命【前編】(2/4 ページ)
明治維新以降、日本の基幹産業だった繊維は、1970年代ごろから衰退の一途をたどった。染色加工が中心だったセーレンもそのあおりを受けて倒産寸前に。この窮地を救ったのが、当時社長に就任したばかりの川田達男氏だった。同氏が起こした「革命」とは。
左遷人事にもめげない
こうした状況に前々から警鐘を鳴らしていたのが川田氏だった。上記のようなことを、新卒研修時代、毎日のように実習日誌に書いては上司に楯突いた結果、会社の怒りを買う。研修終了後、大卒社員は基本的に本社勤務となる中で、一人だけ工場配属という左遷人事を食らった。ただ、川田氏には信念があった。
「あるべき姿というか、正義感というか、そういう思いは昔から常に持っていましたね」
以降も挫(くじ)けることなく、思ったことを堂々と口にするなど、“異端児”ぶりは健在だった。後年、社長の白羽の矢が立ったことは、周囲だけでなく川田氏自身も青天の霹靂(へきれき)だったと回想する。ただ、経営トップの座についたことで、いかんなく力が発揮されるようになった。それがセーレンの革命につながっていく。
業界の反発を押し切ってカネボウを買収
社長になった川田氏が取り組んだことは、繊維産業からの脱却。それを実現するため、5つの経営戦略——「ビジネスモデルの転換」「非衣料・非繊維化」「IT化」「グローバル化」「企業体質の変革」を打ち出した。
中心となったのが、ビジネスモデルの転換である。既に述べたように、細分化された繊維産業の構造そのものが問題だった。セーレンはそうした分業体制から抜け出し、一貫生産体制の確立を目指した。
「分業だと儲からない。われわれが長年やっていた染色加工というのは委託なんですよ。自分でものを作ったり、売ったりしていない会社だったわけです。白い生地をお預かりして、この色に染めろと言われて、言われた色に染めて、お返しして。そうするとお駄賃がもらえる。賃加工であって、売買はない」
これまで染色加工一本足だったセーレンだったが、川田氏はすぐさま整経・製織・編立と、縫製の子会社を設立して事業化した。そして、一貫生産体制に向けた最後のピースとなる原糸の製造のために、業界内の反発を押し切ってまでもやってのけたのが、2005年のカネボウの繊維事業の買収だった。
「再生不可能というレッテルを貼られていた会社を引き取るわけですから、社内外とも大反対でした。繊維業界のトップ企業の社長からは『まったく可能性のない会社。これは国に任せてつぶそう』とまで言われました。しかし、セーレンはプロセス産業から抜け出し、糸から最終の縫製まで全工程を内製化しないと生き残れないと考えていました。繊維業界では非常識で、頭が狂ったんじゃないかと散々言われましたよ。でも、一貫生産体制は夢でしたし、結果的にこれが最大の武器になりました。繊維産業において全てを内製化できるのは世界でもセーレンだけです」
一貫生産体制を築いたことで、繊維のコア技術をさまざまな分野に応用できるようになった。代表例が、全社売り上げの約6割を占めるほどの稼ぎ頭となっている車輌資材事業だ。カーシートの表皮材をはじめ、加飾部品、エアバックなどの企画、製造、販売を行う。同事業で開発された合成皮革の新素材「QUOLE」は本革の4倍の耐久性、2分の1の軽さという機能性の高さが自動車メーカーなどから注目を集め、グローバルでトップシェアを誇る。
関連記事
- 海外売上比率6割でも国内社員の9割は福井県人 繊維大手・セーレンが地元にこだわる理由
ピンチをチャンスに変える。総合繊維メーカー大手のセーレンこそ、この言葉にふさわしい企業だ。過去に何度も危機を乗り越え、今回のコロナ禍も踏みとどまり、既に増収増益に転じている。そんな同社が長きにわたって地元・福井に与えてきた影響とはいかに。 - 「このままではつぶれる……!」 繊維業界の常識を壊して倒産危機を救ったセーレン・川田会長の革命
明治維新以降、日本の基幹産業だった繊維は、1970年代ごろから衰退の一途をたどった。染色加工が中心だったセーレンもそのあおりを受けて倒産寸前に。この窮地を救ったのが、当時社長に就任したばかりの川田達男氏だった。同氏が起こした「革命」とは。 - 「この企業に勤める人と結婚したい」ランキング トヨタ自動車、任天堂をおさえての1位は?
「この企業に勤める人と結婚したいランキング調査」。1位は「地方公務員」(28.6%)だった。 - 上場企業の「想定時給」ランキング、3位三井物産、2位三菱商事 8000円超えで「ぶっちぎり1位」になったのは?
上場企業の「想定時給」ランキング……。3位三井物産、2位三菱商事に続き「ぶっちぎり1位」になったのは? - 「年商1億円企業の社長」の給料はどれくらい?
「年商1億円企業」の社長はどのくらいの給料をもらっているのか? - コロナ禍でも不文律破らず 「シウマイ弁当」崎陽軒が堅持するローカルブランド
人の移動を激減させた新型コロナウイルスは、鉄道や駅をビジネスの主戦場とする企業に計り知れないダメージを与えた。横浜名物「シウマイ弁当」を製造・販売する崎陽軒もその煽りをまともに受け、2020年度は大きく沈んだ。しかし、野並直文社長は躊躇(ちゅうちょ)することなく反転攻勢をかける。そこには「横浜のために」という強い信念がある。 - 創業以来初の「うなぎパイ」生産休止にもめげず、春華堂がコロナでつかんだ“良縁”
「夜のお菓子」で知られる静岡のお土産品、春華堂の「うなぎパイ」が新型コロナウイルスの影響をまともに受け、一時は生産休止に追い込まれた。そこからの立て直しを図る中で、新たな付き合いも生まれたと山崎貴裕社長は語る。その取り組みを追った。 - 50億円を投じてでも、新施設で「うなぎパイ」の思いを春華堂が再現したかった理由
今年4月、春華堂が浜松市内にオープンした複合施設「SWEETS BANK」は、コロナ禍にもかかわらず連日のようににぎわいを見せている。ユニークな外観などに目が行きがちだが、この施設には同社の並々ならぬ思いが込められている。 - 100年近くレシピの変わらない「崎陽軒のシウマイ」が今も売れ続ける理由
経営者にとって必要な素質、それは「何を変え、何を変えないか」を見極める力である。崎陽軒の野並直文社長は身をもってこの重大さを学んだ。 - 借金100億円をゼロにした崎陽軒・野並直文社長 横浜名物「シウマイ」を救った“2つの変革”とは?
バブル崩壊直後の1991年に崎陽軒の経営トップとなった野並直文社長は、いきなり倒産の危機に直面する。下降を続ける売り上げや、大規模な設備投資などによって借金は100億円を超えた。そこからどのように立て直しを図ったのだろうか。 - “昭和モデル”を壊して静岡を変えたい わさび漬け大手・田丸屋本店の意思
日本人の食生活の変化、さらには新型コロナウイルスの感染拡大によって、静岡名物の「わさび漬け」は苦境に立たされている。しかし、今こそが変革の時だと、わさび漬けのトップメーカーである田丸屋本店は前を向く。展望を望月啓行社長に聞いた。 - 「アイリスのマスクを世界一にする」 ヒット商品ナノエアーマスクを開発した中途入社のリケジョ部長
ヒット商品「ナノエアーマスク」を開発したアイリスオーヤマの岸美加子ヘルスケア事業部長は「アイリスのマスクを世界一にする」(生産数)と意気込む。着け心地の良いマスクの開発に知恵を絞っている。「ナノエアーマスク」開発の舞台裏を聞いた。 - 快進撃続けるアイリスオーヤマの「おじさん技術者」たち 元「東芝」技術者のもと“テレビ”でも旋風を起こせるか
アイリスオーヤマ初の音声操作可能なテレビを開発するために陣頭指揮を執ったのは、東芝を早期退職してアイリスに入社したテレビ事業部長の武藤和浩さんだ。同社の家電事業部の社員は出身企業が異なる「混成部隊」だ。シャープや東芝出身の40〜50代以上もおり、中には30代で前の会社に見切りをつけてアイリスに移ってきた技術者もいるという。果たしてアイリスの「混成部隊」はテレビ事業でも旋風を起こすことができるのだろうか。 - アイリスオーヤマ家電開発部部長が語る「混成部隊」を戦力化して売上を伸ばす秘密 前職の“うっぷん”を商品開発にぶつけてもらう
快進撃を続けるアイリスオーヤマを支えているのが大手家電などから転職してきた中途入社組の人材だ。彼らをやる気にさせる人材活用術やノウハウについて、家電開発部の原英克・執行役員部長に聞いた。 - アイリスオーヤマ、通気性にこだわった国産「ナノエアーマスク」発売 7枚498円
アイリスオーヤマは、着用時の息苦しさや蒸れを緩和する「ナノエアーマスク」の発売を発表した。発売日は「ふつう」サイズを6月中旬、「小さめ」サイズを9月予定としている。価格はどちらも7枚入りで498円(税別)。 - 富士通「年収3500万円」の衝撃 ソニー、NECも戦々恐々の「グローバル採用競争」
「富士通3500万円」「NTTコム3000万円」「ソニー1100万円以上」「NEC新卒年収1000万円」――。優秀な人材を獲得するためにカネに糸目をつけず施策を展開する各社の危機感と焦燥。繰り広げられる採用“狂騒曲”の本質に迫った。 - 販売台数は前年比3倍! シャープの水なし自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」開発者に聞く――共働き家庭の必需品に
シャープが2015年に発売した水なし自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」がヒットを続けている。派手な宣伝戦略を取っていないにもかかわらず、2020年の4〜6月の販売台数は前年比3倍まで急増した。開発者に舞台裏を聞いた。 - 「アイリスのマスクを世界一にする」 ヒット商品ナノエアーマスクを開発した中途入社のリケジョ部長
ヒット商品「ナノエアーマスク」を開発したアイリスオーヤマの岸美加子ヘルスケア事業部長は「アイリスのマスクを世界一にする」(生産数)と意気込む。着け心地の良いマスクの開発に知恵を絞っている。「ナノエアーマスク」開発の舞台裏を聞いた。 - 大赤字のANA救済 JALとの統合は「最悪のシナリオ」
「JAL、ANA統合論」の行方は? - アイリスオーヤマが日本赤十字にマスク10万枚を寄付
アイリスオーヤマは日本赤十字社に10万枚のマスクを寄付する。同社は今月、北海道の住民に向けて100万枚のマスクを提供するために国に売り渡したり、政府の「マスクチーム」に40万枚を寄付したりすることを発表していた。大山晃弘社長は「マスクが手に入りにくい状況が続くなか、必要としている皆さまにお届けするために、現在マスクの生産は24時間フル稼働しております」とコメント。 - アイリスオーヤマが国内にマスク生産設備を導入 日本への供給能力を約8割引き上げ
アイリスオーヤマは同社の大連工場(中国・遼寧省)と蘇州工場(中国・江蘇省)に加え、宮城県角田工場の一部を改修してマスクの生産を実施する。世界的な新型コロナウイルスの感染症問題の長期化に伴ってマスクの入手が困難な状況が続いていることから決定した。政府は3月中に月6億枚のマスク確保を目標に掲げ、各企業に供給量の増加を要請している。同社もこれに応じ、補助金の対象になる。 - オンデーズ、全国の店長年収を平均100万円昇給 狙いは?
OWNDAYSは店長職の年収水準を全国一律で平均100万円引き上げる。 - コロナ禍で志願者は月3000人 応募殺到のアイリスオーヤマ中途採用担当に聞く「こんな人材は採ってはいけない」
コロナ禍で売上を落とす企業が多い中にあって、売上増の快進撃を続けている家電、生活用品を製造販売するアイリスオーヤマ。それを支えているのが大手家電などから転職してきた中途入社組の人材だ。中途採用を担当している佐藤祥平・人事部採用人材開発部リーダーに活躍する志願者の見分け方などを聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.