70億円の赤字想定 北陸新幹線・延伸ともに爆誕した「ハピラインふくい」の今後を占う:宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(2/4 ページ)
2024年3月16日、新しい鉄道会社「ハピラインふくい」の路線が開業した。ハピラインふくいの今後の経営環境は、課題が山積している。期待と不安が入り交じるハピラインふくいの今後を探りつつ、北陸3県ごとの第三セクター鉄道の課題についても整理してみよう。
商売下手? 赤字補填に向けて必要な要素
ハピラインふくいの赤字を埋めるために準備されたのが、福井県や沿線市町村によって作られた約70億円の経営安定基金だ。この基金をなるだけ取り崩さず、金利・運用益で今後の赤字を埋めていくことになる。
幸いにして24年現在、植田和男・日本銀行総裁が17年ぶりのマイナス金利解除・利上げの検討を始めている。過信は禁物だが、これまで低金利による運用益低下で効力を発揮しなかったJR北海道・JR四国などの基金よりは、安定した運用益が見込めるかもしれない。
JR西日本から約70億円で引き継いだ鉄道設備のなかには、空きスペースや店舗を展開できそうな空間も多くある。今後は広告出稿やテナント入居などで、こういった空間を少しでもマネタイズするノウハウが必要となってくるだろう。
開業初日に気になったのが、全体的な「商売っ気の薄さ」だ。
車内の広告は自社のPRで埋め尽くされ、まだ一般的な広告を取りにいく営業部隊が動いていないことを感じさせた。
もっとも、15年に発足したあいの風とやま鉄道、えちごトキめき鉄道でも似たような状態(広告自体がほぼなかったので、もっとひどい)だったため、副業収入も含めて開業当時からロケットスタートさせるような感覚は、半官半民の第三セクター鉄道にはないのだろう。
せっかくの開業フィーバーなのだから、「しばらく需要が激増します! 今スポット広告のご契約を!」と営業活動を行うような感覚がないものかなぁ……と、第三セクター鉄道の開業を見に行くたびに「もう俺に飛び込み営業させろよ!」(注:筆者はもともと営業マン)とすら思う。
また、福井駅には券売機が1台しかない(スペースは6台分あるが、JRのものであるため閉鎖。開業2日後に1台増設)。丸岡駅・森田駅などで券売機トラブルがあり、切符の購入・精算は長蛇の列。開業日の特需を逃すだけでなく、後味の悪さも残った。
こちらは「ハピラインふくい開業記念・鉄道3社共通1日フリーきっぷ」などのフリー切符を購入すれば、記念になる上に行列に並ばなくていい。せめて臨時売店や購入の案内所を設けて「これを買ったら記念になるし、このあとも乗り放題ですよ!」などと積極駅に声をかけていれば、行列に並ぶ利用客の心象も、売り上げも違ったかもしれない。
杉本達治・福井県知事(ハピラインふくい会長職を兼任)によると、北陸新幹線・ハピラインふくい開業日に飛行した「ブルーインパルス」見たさの乗客が想定外に多かったようで、切符の販売体制や車両数について「大変申し訳なかったと思っている」と陳謝している。
こういったイベント需要は毎週続くものではないにせよ、ハピラインふくいにとっては、またとない稼ぎ時であったはず。経営環境の厳しさが見込まれるのであれば、機を見て臨時増便を行い、隙あらばグッズを売ろうとする銚子電鉄の機動力・良い意味でのがめつさを少しは見習い、支持されて、かつ稼げる企業体質を作ることを心掛けてもよいのではないか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
北陸新幹線・敦賀延伸 迫る「対東京シフト」の大転換
2024年3月16日に北陸新幹線・金沢駅〜敦賀駅間が延伸開業する。新しい新幹線は、これまでの観光の需要に加えて、ビジネスでの出張移動なども期待されている。敦賀延伸で、福井県のビジネスパーソンの移動に変化が起き、さらに対首都圏シフトが進むのだろうか。
話し合い拒否で長引く「JR西VS.自治体」の攻防 「乗客1日13人」の芸備線、存廃の行方は?
1時間に90本離着陸――なぜ、羽田ばかり超過密に? 「第三空港」「成田リニューアル」の可能性は
臨海部と東京駅を“ボーン”とつなぐ「新地下鉄」 なぜ運営が「りんかい線」事業者に?
京葉線の「通勤快速廃止」 責任は本当に鉄道会社だけなのか
東京駅から羽田空港がたった18分! 「羽田空港アクセス線」でどうなる? 京急・東京モノレール
東京駅〜羽田空港間を結ぶ鉄道「羽田空港アクセス線」(仮称)が、2023年6月から工事に入る。首都圏の広い範囲から羽田へ乗り換えることなくアクセスが可能に。現状移動を担う京急・東京モノレールへの影響はあるのだろうか。
ベンチャー航空「トキエア」 “したたか”な戦略も、就航延期を繰り返すワケ
航空会社「トキエア」が新潟空港〜札幌・丘珠空港で同社初の航路を開設する。その戦略は非常に“したたか”だが、何度も就航延期を繰り返す。背景には深い事情がある……。
東京BRTは巨大タワマン街「晴海フラッグ」の足になれるか 立ちはだかる4つの課題
総額648億円 JR東の赤字路線、原因は「収入が少ない」だけじゃない
大阪・金剛バス、なぜ全線廃止に? 自治体の責任と運転手の過酷な勤務実態
大阪府の南東部を拠点とする「金剛バス」が全線廃止。背景には、自治体の責任と運転手の過酷な勤務実態がある……。
「入社祝いで400万円」それでも足りないバス運転手 3つの元凶は?
北海道新幹線は「函館駅乗り入れ」なるか? 課題は山積み
北海道新幹線は「函館駅乗り入れ」なるか? 大泉新市長の元、取り組みが進められるが課題は山積み。どうなる?
北総鉄道、前年の“大幅値下げ”後に「赤字447億円」を完済 実現できた理由は?
北総線がピーク時の「赤字447億円」を完済。22年の10月に「通学定期を最大64.7%引き下げ」「普通運賃を最大100円引き下げ」という運賃改定に踏み切り、話題を呼んだ。なぜ今の今まで、劇的に運賃を下げられなかったのか。
100円稼ぐのに「海鮮丼」並みの経費…… 北海道・留萌から「鉄道消滅」の理由
2023年3月末、留萌市から鉄道が消滅する。かつては一大ターミナルだった「留萌駅」。なぜ消滅に至ったのか、乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が解説する。


