JR肥薩線は「235億円」で復旧、根室本線はすんなり廃止 ローカル線存続、何が明暗?:宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(3/3 ページ)
利用が少なくても、救いの手が差し伸べられて助かる鉄道。一方で、被災したまま力尽きる鉄道。ローカル線復旧・存続は、どこで道が分かれるのか。
26億円かけて2回も復旧も廃止……混迷を極めたJR三江線
最後に、やや特殊な「奇跡の復活を果たしたが、そのあとすぐ廃止」という、JR三江線(広島県・島根県)の事例を紹介したい。こういった事例があると、無条件の鉄道復旧が本当に良いのか、少し考えてしまう。
全長108.1キロにも及ぶ三江線は、2010年以降には1日の平均乗客数が50人を切るなど、厳しい経営環境にあった。しかも、2006年・2013年には土砂災害・水害によって長期運休。2006年には15億円、2013年には10.8億円(JR西日本が6億円、島根県が4.8億円を負担)をかけて復旧させ続けてきた。
しかし、年間9億円ほどの赤字を出す状態は変わらず、鉄道設備の貧弱さから最高速度15〜30キロしか出せない区間もあり、バスを使って運転本数を倍に増やした増便実験も、「2割の乗客増」という全く物足りない結果に。鉄道としては、もはや体をなしていなかった。
その中で沿線自治体は「26億円もかけて復旧してもらったのだから、ウチは大丈夫だ」とばかりに費用負担の話を避け、JR西日本からの第三セクター鉄道転換・上下分離式の導入提案に対しても、実効性が疑わしい利用促進策ばかりを提案。まともな話し合いを避けてきた。
業を煮やしたJR西日本は、2016年9月に「(上下分離策など)どのような形であっても、三江線の経営は行わない」という意向を示した。沿線が根本的な赤字解消、費用負担の話に取り合わなかったために、事実上の交渉打ち切りを宣言せざるを得なかったのだ。
各自治体はJRの強硬姿勢に抗議したものの、今さら地域一丸の出資や受け入れ態勢の構築はできず、2018年に全線廃止となる。約26億円の“奇跡の復旧”費用は、ほぼムダになったといっていい。
この傾向は、国土交通省の「再構築協議会」で存続・廃止への検討が行われている、JR芸備線・備後庄原駅〜備中神代駅間にも当てはまる。この区間では施設・線路ともに鉄道の体をなしておらず、天候不良のたびに運休が頻発。かつ2006年、2020年には、災害により長期運休を余儀なくされた。2020年の運休の際には、「1日3往復の列車の代行バスが1往復」という体制だったが、乗客は少なく特に問題は起きなかった。
この状態に対して、沿線の庄原市・新見市では赤字の補填や設備投資への資金提供を行わず、「JR西日本が責任をもって赤字を埋め、存続すべき」との姿勢を崩していない。しかしJR西日本も鉄道としての存続に難色を示しており、再構築協議会の期間である3年間の間に、三江線のような「どのような形でも経営を行わない」宣言が飛び出しかねない。
災害によって運休を余儀なくされた鉄道路線の中には、「当初は廃止が検討されたものの、平日朝には代行バスは14台も必要となるため、一度に300人以上を運べる鉄道の必要性が浮き彫りになった(熊本県・くま川鉄道)」など、望まれて復旧が決まるケースも多い。
大切なのは復旧費用だけでなく、復旧後の安定した経営と、持続性のある集客であり、再開が検討される際に、鉄道の必要性を広くプレゼン(説明)したうえで、鉄道復旧が決まる。その鉄道が必要であれば、という前提だが、災害に備えて、鉄道各社や自治体はこういった状況を想定しておいた方が良いかもしれない。
宮武和多哉
バス・鉄道・クルマ・駅そば・高速道路・都市計画・MaaSなど、「動いて乗れるモノ、ヒトが動く場所」を多岐にわたって追うライター。幅広く各種記事を執筆中。政令指定都市20市・中核市62市の“朝渋滞・ラッシュアワー”体験など、現地に足を運んで体験してから書く。3世代・8人家族で、高齢化とともに生じる交通問題・介護に現在進行形で対処中。
また「駅弁・郷土料理の再現料理人」として指原莉乃さん・高島政宏さんなどと共演したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」(既刊2巻・イカロス出版)など。23年夏には新しい著書を出版予定。
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