なぜANAは批判を受けても「300万円」を譲らなかったのか SFC改定が突きつける“真の優良顧客”の条件(2/3 ページ)
4月の発表で波紋を呼んだANAの「SFC改定」。9月にラウンジの一律制限緩和を発表したものの、決済額「300万円の壁」は維持した。妥協に見えるこの見直しは、実は「飛ぶ客」から「日常で使う家族」へと優良顧客を再定義し、LTV(顧客生涯価値)の最大化を狙う高度なマーケティング戦略だ。早稲田大学ビジネススクールの長内厚教授が、批判を受けてもANAが死守したラグジュアリー戦略の真の狙いを読み解く。
「ラウンジ利用6割」の真実 なぜ一律制限を撤回したのか?
ANAの説明によるとラウンジの利用者数は、夕方などには、快適性を保てる座席数の目安を超え、一部では座席数そのものを上回るという。一方、プレミアムメンバー以外のSFC会員が利用していても余力のある時間帯は多い。ただし、これは複数空港の平均であり、個々の空港や特定日の混雑状況まで示すデータではない。
このデータを踏まえると、今回の修正は、混雑している時間と、空いている時間を分けて考え直したものと推測できる。
ラウンジの空席は、翌日に繰り越して使えるわけではない。空いているときに会員を受け入れても、他の利用者の快適性を損なわないなら、顧客との関係を維持する機会になる。逆に、混雑時に際限なく受け入れれば、上質な時間を提供するはずのラウンジ自体の価値が下がってしまう。優待を受ける資格を配ることと、実際に満足できる体験を提供することは、同じではない。
重要なのは、利用者を減らすこと自体ではなく、快適に利用できる状態をつくることだ。「誰を入れるか」だけでなく「いつなら受け入れられるか」を管理する。4月案の一律制限に対して、今回の見直しは設備の活用と顧客体験の両立を図る、より合理的な運用と評価できる。
もっとも、固定された時間帯の開放が決まったわけではない。ANAが示したのは混雑予測に基づく運用であり、利用者が事前にどこまで見通しを持てるかは、今後の制度の具体化において問われる。
家族会員には「飛ぶ」より「使う」が効く
制度の狙いがさらに鮮明になるのが、SFCの家族カードの扱いだ。筆者がANA広報に確認したところ、SFC家族会員の区分は、本会員のSFCに連動するとのことだ。本会員がLITEなら家族もLITE、PLUSなら家族もPLUSであり、300万円の判定には家族カードの利用分も合算されるという。
例えば、100万マイル特例の対象外の本会員が、搭乗によってプラチナ資格を維持しても、決済条件を満たさなければSFCはLITEだ。本人は有効なプラチナ資格に基づく優待を受けられるが、別の資格を持たない家族会員のSFCはLITEのままである。
一方、SFC取得後に搭乗を増やさなくても、年間300万円の決済条件を満たせば、本人も家族もPLUSとなり、スターアライアンス・ゴールド資格を持てるように設計している。つまり、SFC取得後は、追加の「マイル修行」をするより「カード修行」をするほうが、よりメリットが大きくなるように設計したともいえる。
少なくとも家族が単独で旅行するときの資格という点では、プラチナ維持のために追加搭乗するより、日常の支払いを集約するほうが効果的になる場面を作った。これは、本人に同行してラウンジを使えるかという話とは別である。
経営学的には、顧客を見る単位を、搭乗する個人から日常消費を共有する家族へ広げた設計と解釈できる。本人だけでなく家族にも還元することで、世帯全体の支払いをANAの提携カードにまとめる動機をつくる。家計の支出を新たに増やすのではなく、他のカードに分散していた支払いを集約することで、条件達成を目指せる世帯もあるだろう。
飛行機に乗れる機会には限りがある。しかし日常の支払いなら、旅行のない月にも関係を続けられる。SFC取得後の継続的な優待について、搭乗以外にも貢献の道を設けることには合理性がある。ただし、既存会員には新たな条件が追加となる点は忘れてはならない。
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